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【書評】『ロベスピエール』

  • seikeigakubueuropa
  • 2022年9月27日
  • 読了時間: 5分

更新日:2022年10月8日


松浦義弘著、世界史リブレット、山川出版社、2018年3月20日


文責:青木秀磨(政経学部2年)



●はじめに

 本書は、今でも賛否両論を起こしている革命家ロベスピエールという人物について書かれたものである。常に恐怖政治と結び付けられた彼がどのように世論を動かし、権力の座についたのかをフランス革命前後の歴史的推移から見ていく一冊である。著者は東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学し、現在は成蹊大学文学部教授である。本書における著者の立ち位置としては、ロベスピエールの言論に対して重点を置き、フランス革命の歴史的事実についてはあまり追及していない。



●本書の概要

 本書の構成は以下の通りである。

 

 世論を支配した革命家(1頁)

第一章 革命家ロベスピエールの誕生(4頁)

第二章 闘うロベスピエール(27頁)

第三章 権力掌握に向けて(53頁)

第四章 弁論家ロベスピエール(65頁)

第五章 権力の座についたロベスピエール(79頁)


●本書の内容

 最初に、第一章を取り上げていこうと思う。ロベスピエールはフランスで生まれた。父親の家系は法律系が多く、母親の家系はビール業者だった。つまり比較的ブルジョワな家に生を受けたのである。しかし、母が五人目の出産がもとで亡くなってしまう。母の死後、兄弟はバラバラに預けられ、ロベスピエールはアラースにいる祖父母のもとで過ごすこととなる。そこのコレージュと呼ばれる中等教育機関に入学すると、学業が優秀だったため名門ルイ=ル=グラン学院へ行くことになる。そこで、ロベスピエールは古典と法律を学んだ。彼はこの学院で学を身につけていったのである。その後、学院を卒業してアラースで弁護士を開業する。二十五歳になるころには地方エリートとなっていた。また、彼は弁論活動もおこなっていた。ロベスピエールは法廷では原告を敵としたり、彼らの行為を陰謀とみなしたりしていた。さらに、彼は訴訟事件を法律的観点からではなく、平等や正義、人道、徳などから論じる傾向があった。彼は、権力的秩序をこの時まだ容認していた。社会の腐敗を嘆いて批判した時でさえも、今の社会的枠組みの中で改革すべきと考えていた。しかし、フランス革命がやってきたことでロベスピエールは、全国三部会の選挙の際に特権階級と第三身分の支配層に対して宣戦布告ともいえる行動を起こし始める。まずは人々に目覚めるよう呼びかける。陰謀の暴露は危険が伴うが黙ってはいけないと訴える。ロベスピエールの二項対立的な弁論がより明白になり始めた時期である。


 次に、第二章を取り上げる。この時からロベスピエールは政治に介入していく。第三身分の代表決めの討論などや三部会での躍進により、無名から代表的な革命家になっていったのである。また、彼は国民や人民という言葉を使って言説に説得力を持たせた。ロベスピエールにとって議会は闘技場であり、ほぼすべての改革に参加した。ロベスピエールは人権宣言の重要さを理解していたため、まだ残る不平等に対して進んで批判した。そんなとき国王が逃げるヴァレンヌ事件がおこり、国王も処罰の対象に入れるべきだと思い始めた。こうした改革的なことが落ち着き故郷に帰る前に、人民に感謝される立場になっていたのである。

 

 次に、第三章にいきたいと思う。王政廃止が決定したフランスの議会では右派のジロンド派と左派の山岳派に分かれており、ロベスピエールは山岳派だった。また、どちらでもない平原派もいた。ジロンド派は、ロベスピエールが独裁であり偶像崇拝の的になっていると非難した。しかしロベスピエールは華麗に論破し打開した。その後、議会は国王の問題や派閥の抗争が中心になっていく。ジロンド派はロベスピエールの策によって没落していく。


 次に、第四章について書く。ここでは、何故ロベスピエールはここまでの人物になったのかが述べられている。彼は、徳を強調して国民主権というものをうまく利用したのである。しかし、徐々に自身を支持してくれる世論を利用した専制支配になっていくのである。


 最後に、第五章を書く。ロベスピエールは政治的に腐敗した社会を変えるために国王や特権身分に強気に立ち向かい、人民に寄り添っていたはずが、いつの間にか自らが敵としている陰謀家になってしまっていたというものである。結果的に、ついてきてくれる人はいなくなり、自分自身が社会の敵となってしまったことで処刑されてしまうのである。



●本書の評価

 革命を起こすために尽力しつつも専制側にいってしまったロベスピエールへの評価は、一般的に賛否両論あり、意見が分かれる。一方、本書はこうした議論に参加せず、あくまでも人間ロベスピエールを描くことに専念している。ただ、それによって確かにロベスピエールがどういう人であるかはわかりやすかったが、周囲の人にももう少しだけ焦点をあてて欲しいと思う。なぜなら、ロベスピエールから見た世の中だけでは偏ったものになってしまうからであり、ロベスピエールもまた周囲の人との関係の中で成立していたと考えるからだ。しかし、本書には良いところもある。タイトルにある通り、ロベスピエールに関してはかなり深く知ることが出来る。その点では、購入して損はない。また、ライト層にも読みやすいように丁寧に順序よく書かれている。



●最後に

 簡単な説明であったが、気になる方はぜひ購入して読んでほしい。ページ数も少ない方ではあるので、最初に読む本には最適なのではないかと思う。


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