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『ヴァイキングの考古学』

  • seikeigakubueuropa
  • 2024年10月17日
  • 読了時間: 5分

書評:ヒースマン姿子「ヴァイキングの考古学」同成社、2000年

島袋空(政経学部2年)

 

🟢はじめに

 本書は、7章構成であり、ヴァイキングが起こした歴史について、その時代の地形や文化に合わせて画像や地図を使って説明されている。本書を執筆したヒースマン姿子は、考古学が専門であり、現在は、名古屋大学で教鞭を取っている。本書の他にも、「読んで旅する世界の歴史と文化 北欧」や「図説世界文化地理大百科 ヴァイキングの世界」などを出版している。以下では、まず本書の概要を示し、その上で論評したい。


🟢本書の概要

・目次

第1章      ヴァイキングとスカンディナヴィア

第2章      夜明け前

第3章      掠奪の時代

第4章      征服と植民の時代

第5章      統一の時代

第6章      文芸と宗教

第7章      流星の尾


・内容

 本書は、八世紀から十一世紀にかけて、スカンディナヴィアから始まる出来事から説明される。まず、筆者は、私たちは海賊になれても、ヴァイキングには決してなれないと断言している。なぜなら、海賊は今もいるが、ヴァイキングは現代には存在し得ないからである。そして、ヴァイキングは年中海上を浮遊して、獲物をさがす専業海賊でははかった。彼らのほとんどは海外で奢侈品を手に入れると帰宅し、剣や斧をもった手に鍬や釣り竿をにぎる「半農半賊」だった。ヴァイキングは被害者にとって、強盗殺人常習犯であっても、その家族からすれば命を賭けて財産をもちこみ家の繁栄に尽くす、頼り甲斐のある男であった。

また、スカンディナヴィアには、白夜があった。しかし、白夜よりきついのが厳しい冬の寒さであった。電気もガスも石油もなかったヴァイキング時代に、冬を越すことが辛かったのである。しかし、だがスカンディナヴィア人は故郷を嫌悪しなかった。むしろ、ここの美しくも寂しい冬を愛していたのだ。

 そして、リンディスファーン急襲に象徴される初期のヴァイキング時代は、文字通り掠奪の時代だった。掠奪者は痕跡をあまり残さないものだが、ヴァイキングの場合、被災地の年代記や聖人伝でその足跡をかなりよく知ることができる。まず、西に向かった。とくにノルウェー系のヴァイキングが攻撃を集中させたのはアイルランドだった。彼らは、半世紀の間にアイルランドの西部と北東部、そして周辺の島々を次々と襲撃すると、841年以降ダブリンを始めとする各地で「ロングフォート」とよばれる定住地を建設する。

 しかし、やがてアイルランドの小王たちの反撃が激しくなり、また先着のノルウェー系と新参のデンマーク系ヴァイキングの間でも揉め事が起きる。さらに、9世紀後半にはアイスランドなどへの植民が活発化した一方、アイルランドでは搾取と掠奪をひと通り終えていた彼らにとって、この島はそれほど旨味のない標的になってしまったようだ。ヴァイキングはここでいったんこの地を引き上げ、10世紀にふたたび戻ってくることになる。

 アイルランドでの初期ヴァイキング活動は、掠奪を主な目的とした、ある意味では最もヴァイキング的なものだった。そして、アルフレッド王の力でイングランドの大半を手に入れたウィセックスは10世紀に彼の孫がイングランド王となり、事実上統一を果たす。


🟢論点の整理

 以上の内容を踏まえて、現代の海賊行為とヴァイキングの活動の共通点や相違点について整理していきたい。共通点は、どちらとも他人の資産を力ずくで奪うことである。なぜなら、ヴァイキングは、沿岸の村や修道院を襲撃し、財宝や奴隷を奪っていた。同様に、現代の海賊も奪う対象は異なっていても商船やヨットを襲撃し、金品や貨物を奪っていることがあるからである。一方、相違点は、使用する武器の違いである。ヴァイキングが剣や斧を使っているのに対し、現代では、銃や爆発物を使うことが多い。

 これに加えて、北欧の過酷な気候や自然環境がヴァイキングの文化や社会にどのような影響を与えたのか。北欧は長く厳しい冬と短い夏を特徴とする地域であり、農業に適した季節が限られていた。このため、ヴァイキングたちは、生きる為に、多様な適応戦略を開発した。その一つがロングシップである。ロングシップとは、中世にヴァイキングたちが、戦闘員の輸送や交易用に使っていた帆船である。ロングシップの設計は、北海や大西洋の荒海を越える為に特化されており、ヴァイキングたちは、これを用いてお遠く離れた土地まで航海をしていた。そのため、航海技術の発展に影響したと言える。


🟢結論

 まず、このことからヴァイキングは、現代の海賊と異なることが明らかである。なぜなら、ヴァイキングは、半農半賊というべき存在であり、掠奪行為だけではなく、農業のための新しい土地を探して、航海していくことが重要な活動であった。その点で、掠奪行為を行う存在としてクローズアップされる現代の海賊とは異なる。

 また、北欧の厳しい気候から技術発展を起こし、中世ヨーロッパに大きな影響を与えた。ヴァイキングたちは、限られた時期に行う農業や、厳しい冬に適応するための航海技術を発展させることができ、結果として遠く離れた土地にまで影響を及ぼすことができた。そして、ヴァイキングの歴史から、彼らがただの掠奪者ではなく、文化と社会において多様であったということであり、前述した北欧の厳しい環境に適応して、独自の技術や文化を発展させた人たちであると理解するべきである。そうした意味で、ヴァイキングの歴史を深く理解することにより、現代の海賊行為とは異なるヴァイキングの独自性がわかるだろう。

 これらのことを踏まえて、本書は、ヴァイキングを初めて知る人でも、ヴァイキングの歴史を細かく理解することで、現代と比較できる良書である。気になった点を挙げれば、いきなり日本ではあまり知られていないマイナーな場所を読み手がさも知っているかのように、書いてあることがあり、本書を読み進める上で理解することが困難なこともあった。それでも、ヴァイキングのことを知らない人がその歴史について大きな流れを知ることができるので、そのような人たちにはお薦めの一冊である。

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