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『バスク:もう一つのスペイン- 現在・過去・未来』

  • seikeigakubueuropa
  • 2024年10月17日
  • 読了時間: 4分

書評:渡部哲郎『バスク:もう一つのスペイン- 現在・過去・未来』彩流社、1984年

工藤遥冬(政経学部2年)        


    

🟢はじめに

 本書は、なぜ現在に至るまでバスク地方はスペインからの独立を目指しており、なぜバスクがもう一つのスペインと呼ばれているのかという問題をテーマにした本である。具体的には、バスク地方の歴史が現在のバスク問題にどのような影響を与えているのかが書かれている。


🟢本書の内容

 本書の内容からまずは説明していく。本書の序盤では、バスク地方の歴史、概要について述べられており、そこではバスク人の定義について深く述べられている。バスク人とは、バスク語を話す人々であり、かつバスクの地で居住している者である。これがバスク人の定義とされているが、そもそもそのような固有のバスク人という考え方が根付いたのは、古代ローマ帝国がイベリア半島を侵略した際にまで遡る。結果としてバスクの大半は支配されなかったとされるが、その際に外部からの侵入者たちに激しい敵意を持つことになり、そこから独立的な思想が生まれたとされている。

 次に本書の中盤では、独立を求めるナショナリスタ運動やバスクの統一、分裂や自治問題といったバスクがスペインからの独立を求めるようになった際の問題が書かれている。19世紀のカルリスト戦争により、自治権が廃止され、20世紀に入り、スペイン第二共和制下で一時的に自治権を回復するが、フランコ独裁期には激しい弾圧が行われ、現地の言語であるバスク語の使用さえも禁止されていた。

 そうして本書の終盤では、現代のバスク社会とバスク問題について述べられている。本書の中盤にも述べられていた歴史的背景が、現代のバスク問題と政治に大きく影響している。1959年に設立されたバスクの祖国と自由を表すETAは、長年にわたって武装闘争による運動を行い、バスク・ナショナリスト党を中心とする独立志向は根強く、スペイン中央政府との間で自治権の拡大や財政自治権をめぐる議論が続いている。


🟢バスク問題への考察

 近年でも、このようなナショナリスタ運動の再検討が促進されているという。本書では、バスクの過去と現在を見通すものとしてバスク問題について述べられているが、過去と同じようにナショナリスタ運動を再検討をしても、状況は劇的に変わるわけでもなく、同じ状況が繰り返されるだけではないだろうか。どのような行動を取れば、今後にバスク地方で望ましい生活がもたらされるのか考察しながら本書を論評したい。

 まず考えるべきは、お互いのことを知り、文化などあらゆるものを尊重し合い、理解する必要がある。平和と多様性が尊ばれる現代において、武力での衝突は一番避けなければならないことである。実際、過去にナショナリスタ運動をして、負傷者、死者が出ていることは事実である。現在でも、ナショナリスタ運動の再検討の中で状況が激化すれば、過去と同様の悲劇を生むリスクは非常に高いと考える。そのため、まずは自治体の代表者と国家間で平和的な条約を結ぶ必要がある。

 そこで、私が重要と考えることは、独立を確立させるのがほぼ不可能である可能性を認識の一つにしながら議論を進める方法である。独立を目指す目的に特化した運動からスタートするのではなく、まずは現代にも問題となっている税金問題の改善や、自治体の権威を上げることに注力する道である。要するに、独立という目的から少し距離を置き、バスク地方がより豊かになる方向性の議論を促進させたほうが、バスク地方としても、スペイン政府としてもお互いに理解しやすく、お互いに望ましい社会構造になるのではないだろうか。


🟢おわりに

 本書を読むことで、バスク地方の人々が、自分たちの文化やアイデンティティを非常に大事にしていることが理解できる。スペインのサッカーチームでも、バスク地方には、アスレティック・ビルバオというバスク人のみで構成されたチームがある。常に困難に立ち向かい、打ち勝つ、ビルバオに関わる全ての人が特別な理念を持っていることで知られる。90年以上もの間、スペインのトップリーグであるラ・リーガからの降格経験がないことがその理念の強さを物語っている。

 ここで一例としてスポーツを取り上げたが、食事や言語など様々な分野においても同様であろう。バスク地方の人々は、その特別なアイデンティティを持ちながら生活することを生きがいとすることで、その強さと地域アイデンティティの保持に成功しているのかもしれない。 

 

 

 

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