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【書評】『一冊で分かるスペイン史』

  • seikeigakubueuropa
  • 2022年9月27日
  • 読了時間: 3分

更新日:2022年10月8日



永田智成・久木正雄著、河出書房新社、2021年3月30日


文責:稲葉玲雄(政経学部2年)



●はじめに

 この本は、「複雑怪奇」なスペインの歴史に興味を持ってくれた人に対して、面白さや刺激を感じて欲しいという願いが込められて書かれたものである。


 著者の永田智成と久木正雄は、二人とも「スペイン史」を専攻している。また、本書以外にも、『スペインの歴史を知るための50章』のようなスペインの歴史についての本を出版している。


●本書の概要


①目次

第1章 イベリア半島は誰のもの?

第2章 レコンキスタの一部始終

第3章 「太陽の沈まない国」

第4章 ハプスブルク家からブルボン家へ

第5章 反乱と独立の19世紀

第6章 世界大戦の裏で

第7章 独裁から民主化へ

第8章 現代のスペイン


②内容説明

 本書は8章構成であり、紀元前50~40万年前から現在に至るまでの流れを述べている。

まず前半(第1~3章)は、ガリシア語・バスク語・カタルーニャ語のような独自の言語やキリスト教・イスラーム教・ユダヤ教といった3つの宗教が起点となっており、言語や宗教スペインの歴史に深く関わっていると述べている。また、これらが深く関わったことによりできた法律や社会などについて、事例としてあげながら紹介している。


 中盤(第4~6章)は、前半と比べて複雑さが増してくる。カルヴァン派とカトリックの争いや他国との戦争、日本など様々な国との外交がスペインの歴史にとって深く関係していたことを述べている。もちろん、前半で起点となっていた言語や宗教も関わってくる。また、ここでは戦争中にスペイン国内で起こった出来事や、流行した病気なども事例としてあげながら紹介している。


 後半(第7~8章)は、前半と中盤で議論されていたものが実は相互に結びついたことが明らかにされ、それらが次の時代で新たにもたらしたものについて述べられている。さらに、人民戦線政府と反乱軍の内戦が落ち着き、独裁状態であった政権が民主化へと変わっていく時代の流れや現在の状態を紹介している。



●批評

 筆者は、基本的にスペインを中心として議論を展開しており、スペイン側が周辺地域よりも優位な立場にいるかのように論じている。そのため、歴史上どの場面においても、スペインは悪影響をもたらしていないといわんばかりに述べられているようにも感じられる。特に目立ったのが、スペイン内戦と第2次世界大戦のところである。


 スペイン内戦はドイツ・イタリアの反乱軍支援、ソ連の共和国支援、欧州列強と南北アメリカの不干渉という名の干渉、日本を含め世界55カ国からの義勇兵の参戦などがあったことから、「第2次世界大戦の前哨戦」とも言われている。悪く言えば、第2次世界大戦というのは、スペイン内戦が引き金の1つとなったと言っても差し支えない。しかし、本書では、こういった戦争への経緯を省き、スペインは中立な立場であったとのみ説明している。


 ただし、スペイン史を学ぼうとしている人に対してマイナスなイメージを作らないようにするため、このような形で述べられているのではないかと考えられる。


 しかし、本書は文章が長すぎず短すぎずちょうど良い長さで文章が構成されており、イラストや地図なども所々に載せてあるためわかりやすさは十分にある。それに加え、スペインの歴史を大まかに把握することも容易である。そのため、本を読むことが苦手な方でも読むことができ、スペイン史を知るための基礎文献ともいえる。



●おわりに

 本書は、「複雑怪奇」なスペイン史をできるだけ簡潔にわかりやすく説明している。また、言語や宗教などもスペインの歴史において深く関わっていたことを説明している。

スペインの歴史を少しでも知りたいのであれば、本書はピッタリな本であると言える。本の題名でもあるように「一冊で分かる」というのは、あながち誇張ではないと感じられた。

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