【書評】『ジャンヌ=ダルクの百年戦争』
- seikeigakubueuropa
- 2022年9月29日
- 読了時間: 4分
更新日:2022年10月8日
堀越孝一著、清水書院、2017年
文責:村上銀河(政経学部2年)
*興味のある分野・地域
地域はフランス、今回は特にジャンヌダルクという個人に着目し、フランスにおける百年戦争を深く理解するために上記の本を選んだ。
●はじめに
本書は題名の通り、ジャンヌダルクという一人の人物を通して、フランスの百年戦争について述べられたものである。著者である堀越孝一さんはヨーロッパに関する本も書いており、また西洋史を専攻としていた。また、経歴としては学習院大学教授をつとめた。様々な視点からヨーロッパやフランスというものを研究する中で、ジャンヌが生きた時代の政治的構造を読み解くために、ジャンヌという人物の軌跡とその影響を本書において述べられている。
●本書の概要
一章:噂の娘
ジャンヌダルクがオルレアンに合流するまでにオルレアンで起こった戦いと、それに伴った市民の状態について述べられたのがこの章である。オルレアンの戦いで使用された武器の数、兵士の人数、市民の不安といったものまで詳しく書かれている。この時代のフランスを語るうえで、ジャンヌを指針とする考え方は今なお健在であり、それを後押しするかのようにジャンヌの登場や存在が意図を持って象徴的に描かれているのではないか、という著者の主張が読み取れた。そして、この章の話を踏まえたうえで、オルレアンの攻防はようやく大詰めを迎える。
二章:百年戦争後半の幕開け
「百年戦争」はオルレアンの戦いを含むいくつかの戦いの連鎖であり、三つの政権が三すくみの状態で開始された。そうしたこの戦争の始まりに関わる王族たちについての話に、この章で焦点が当てられている。一章のように戦いが多く書かれているわけではないが、その背景が述べられた重要な章である。
三章:ジャンヌ現代史
ジャンヌダルクが火刑に処されたということは、あまりにも有名で周知の事柄であるだろう。そして、死後にその功績が認められたこともまた、そうであると言える。しかし、象徴としての側面ばかりが重視されており、人間ジャンヌダルクについてはその限りではない。この章では、聖女と呼ばれた少女の生い立ちや家族、そしてジャンヌ自身が述べた発言から分かる人物像について書かれている。
四章:ルーアンのジャンヌ
ここでは、ジャンヌがどのように処刑されたのか、そしてその際に何を述べたのかという部分がメインで書かれている。火刑に処される際のジャンヌの言動は、彼女を語る上では非常に重要な手がかりであり、最も重要であるとさえ言えるのではないだろうか。
実に簡潔にまとめたが、上記のことが各章でメインとなる内容である。文章全体を通して、各章ごとにわかりやすくまとまっているが、それぞれが独立して完結しているわけではなく、一章から二章へ、二章から三章へというように一つの主張へつながるように構成されていた。これは、万人に理解されようというよりは、狙った層に伝えたい主張があるのではないか、というように感じられた。これは、各章で徐々に筆者の一番の主張をより鮮明に伝えるための下地が作られているという捉え方も出来る。
●批評
この本はライトな層というよりも深い理解を得たいもの、つまりある程度の事前知識があるものを想定して書かれている。そして、そうした読者層の目線から考えると、興味深いものなのではないだろうか。ジャンヌダルクを中心に据えてこの時代のフランスについて述べるという方法は、もはや通説とも言えるありきたりなものである。しかし、戦争の際の武器や人数の具体的数値(あくまでも限られた文献から著者が補足したという前提はあるが)や、人々の動き、そして当時の人物の思惑に対する著者独自の推測。このような知識の補完や、新たな視点の開発は、この時代のフランスを深く知りたい読者層にはまる内容であるといえるだろう。
だが、それ故にライトな読者層には難しい内容となっている。そもそもジャンヌの登場する戦争の後半以前に関しては、ほとんど触れられておらず、全体の流れを把握することが困難だ。更に、先に述べたように人物に焦点を当てた記載も多く、登場人物も多い。
もし、初歩的な知識を増やしてしまうと、狙った読者層からすれば少し長いと感じられてしまうことは容易に想像できるため、著者も敢えて範囲を絞ることで、情報の密度を高めたのだろう。ジャンヌという人物に焦点を当てていることを考えると、賢明な判断であると考えられる。その試みに対応して、各章のコンセプトが明瞭であることも良い点である。一章においてオルレアンの戦い、二章で戦争の背景、三章でジャンヌについてというように、著者の狙いと各章で伝えたいことが実に分かりやすくまとめられており、読者は情報の整理がしやすくなっている。
●おわりに
読者層を絞っていることから万人にうけるものというよりは、より深い知識を求めるものに必要とされる著書であり、その需要に応じるだけの内容だと言える。ジャンヌダルクの百年戦争という題名の通り、ジャンヌという一人の人物についての内容と、戦争についての内容が良いバランスで書かれていて、ストレスなく読める素晴らしい文献である。
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