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『世界史を作った海賊』

  • seikeigakubueuropa
  • 2024年10月17日
  • 読了時間: 5分


書評:竹田いさみ『世界史を作った海賊』ちくま新書

山本ことみ(政経学部2年)


🟢本書の概要

 本書は、「海賊」という暴力装置にスポットをあてつつ、この言葉にプラスの意味を見出す社会背景・伝統を探り、現代に通じる価値観の始まりを探る。「海賊」がイギリスや欧米の世界ではなぜ「英雄」や「冒険商人」として美しく描かれるのかそのわけを探る。

著者の竹田いさみは、日本の政治学者であり、国際政治学、オーストラリアの政治外交が専門であり、獨協大学で教鞭を取っている。本書の他にも、『物語 オーストラリアの歴史』などの著作で知られる。

 

🟢本書の内容   

・目次 

第1章:英雄としての海賊―ドレークの世界周航(貧しい二流国からの脱却;“海賊マネー”で国家予算を捻出ほか) 

第2章:海洋覇権のゆくえ―イギリス、スペイン、オランダ、フランスの戦い(勝利の立役者としての海賊;無敵艦隊との戦い―スパイ戦ほか) 

第3章:スパイス争奪戦―世界貿易と商社の誕生(貿易の管理と独占の仕組み;魅惑のスパイス貿易ほか) 

第4章:コーヒーから紅茶へ―資本の発想と近代社会の成熟(コーヒー貿易と海賊ビジネス;覚醒と鎮痛のドリンクほか) 

第5章 強奪される奴隷―カリブ海の砂糖貿易(甘いクスリ―砂糖の登場;イギリスと奴隷貿易ほか) 

 

 本書の内容を紹介する。ここで紹介するのは、《エリザベス女王の時代》である。エリザベス女王は、スコットランド女王メアリーとの権力戦争をおこなっていた。エリザベス女王は多くの海賊を味方につけて勢力の拡大をはかった。なぜ大勢の海賊を味方につけ、女王の勢力を少しでも増やそうとしたのか。海賊というと財宝を目指すイメージがあるが、ここでは重要ではない。財宝を略奪するという目的以外で海賊たちを海軍に編入するなど、戦争マシーンとして活用したわけである。 

 《事のきっかけ》は、イギリスとスペインの関係が悪化する政治事件である。すなわち、メアリー女王の処刑であった。メアリーは、エリザベス女王暗殺計画の首謀者として逮捕され処刑された。この事件をきっかけに、スペインによるイギリスへの敵意は激しくなり、スペインは無敵艦隊1を編成して、イギリス本土を攻撃する主戦論が急速する。 

結果として、処刑の成功はどのような影響を与えたのか。カトリック世界の守護神を自認してするスペイン王国フェリペ2世は激怒し、さらにイギリス海賊の横暴な略奪行為にも腹を立てていた。 

 そこで、《海賊の活用》である。スペインとの戦争は避けられないと判断し、エリザベス女王は海賊船団を編成し、スペイン本土への先制攻撃を指示する。あくまで海賊による襲撃と略奪に過ぎず、国家が関与していないことを装っていた。エリザベス女王は海賊を活用した非正規戦を導入することで、スペインの戦力を可能な限り弱体化させる作戦に出たのである。 

 

🟢論点の整理

 まず第一に、海賊は当時の海上交通や貿易において重要な存在であった。海賊を雇用することで、敵対する国や海賊船団に対抗し、貿易ルートを確保することができていた。海賊を使うことは、エリザベス女王にとっては有益な手段であった。以下では、権力戦争で海賊を使うことでのメリットとデメリット整理したい。

 まず、《メリット》である。当時、海賊は比較的安価に雇うことができていたので、戦争のための大規模な海軍を維持するよりも経済的であった。さらに、海賊はエリザベス女王の敵対者であるスペインとの戦争において、スペインの船を襲撃することで経済的な打撃を与えることができた。

 また、海賊は政治的な利益にも利用されていた。エリザベス女王は海賊船団と協力し彼らを私掠船として認識することで、国家の利益を追求した。私掠船は、敵対国の船を襲撃し、略奪品を持ち帰ることが許された船であり、エリザベス女王は私掠船を通じて海賊船団を利用して敵国の経済を弱体化させた。

以下のような理由から、エリザベス女王とメアリーの権力戦争では海賊が使われることとなり、海賊は海上貿易の保護や敵国への攻撃、政治的な利益追求の手段として重要な役割を果たした。

  一方、《デメリット》はどうだろうか。海賊は非正規の戦闘部隊であったため、この行動に は国際的な法的問題を引き起こす可能性があった。さらに、海賊は暴力や略奪を行うことが常であり、そのような非人道的な行為を支持することは道徳的に疑問視されることがあった。このように、海賊を使ったことに対して論理的な問題も指摘されていた。

 また、海賊は不安定な要素であり、海賊が制御を失ったり裏切ったりする可能性があった。海賊は自由な行動を好み、時には自分たちの利益のために行動することもあったためエリザベス女王は彼らを完全に信頼することはできず、海賊との関係はリスクを伴ったものであった。

 以上のことがデメリットであり、周囲からの反応や法的なことが問題点となっている。

 

🟢まとめ

エリザベス女王とメアリーの関係は複雑であり、政治的な対立や宗教的な対立が絡んでいた。総合的に言えば、エリザベス女王は権力を保持し、女王の時代はイギリスの黄金時代とされている。一方、メアリーは権力を奪われ、エリザベス女王によって処刑されている。

「海賊」という言葉にプラスの意味を見出す社会背景・伝統の一部がこのイギリス、スペインの間で起こった権力戦争にあるということが分かった。

 海賊行為は法的に犯罪行為であり現代の視点からはロマンチックなイメージよりも犯罪行為を行うものとしての評価が一般的ではあるが、海賊が政治的に重要な役割を果たしていた歴史もある。

 今までの海賊のイメージは海上で戦争したり、財宝を奪ったりと私の中でよい印象はなかった。しかし、本を読むことで複合的に新しい海賊の姿を知ることができる。本書は、そうした海賊の悪い印象を変えることのできる一冊である。 


 

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