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【書評】マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』

  • yasufumidesudesu
  • 2022年7月13日
  • 読了時間: 4分

更新日:2022年10月8日

早川書房, 2010年

 

文責:渡辺才華(政経学部2年)

 

・はじめに

 この本は「この考えが正しい」と方向付けるようなビジネス本ではない。タイトルにもある通り「正義」について様々なアプローチをし、読者に「正義」について見つめ直させる本である。

 著者のマイケル・サンデルは、ハーバード大学教授で、2000年代にハーバード大学の超人気哲学講義“JUSTICE”が公開され、一世を風靡したことはよく知られている。本書は、その講義の内容を元にまとめられたもので、サンデルの喚起した議論のエッセンスが端的にまとめられている。

 

・本書の内容

①目次

第一章:正しいことをする

第二章:最大幸福原理―功利主義

第三章:私は私のものか?―リバタリアニズム(自由至上主義)

第四章:雇われ助っ人―市場と論理

第五章:重要なのは動機―イマヌエル・カント

第六章:平等をめぐる議論―ジョン・ロールズ

第七章:アファーマティブ・アクションをめぐる論争

第八章:誰が何に値するのか?―アリストテレス

第九章:たがいに負うものは何か?―忠誠のジレンマ

第十章:正義と共通善

 

②内容説明

 本書は、十章構成である。問題提起のための第一章の後、第二章からは、実際の社会問題に焦点があてられ、各章で個別の思想を紹介しつつ、その欠点を指摘している。そうして、最後の第10章では、正義と道徳という主題に立ち戻り正義について議論し続けることが重要だと一応の結論がまとめられている。

以下では、具体的な内容を取り上げながら、本書の概略を紹介したい。まず、2つのアプローチを、実際の議論を例示して紹介している。1つ目のアプローチは、最大多数の最大幸福という考え方の「功利主義」。2つ目は、どの人間にも自己所有権があるとし、その行使は自由とする考え方の「リバタリアニズム」である。

しかし、両者ともに限界があると筆者は主張する。前者については、少数の弱者を犠牲にするのはおかしい、また幸福を数値化することはできないと批判している。一方、後者については、道徳や倫理観がない自由すらも認めるのはおかしい、また自分と他者の自由が対立する場合があるとして批判した。

 では、筆者が考える「正義」とは何なのか。それは、美徳や道徳である。そして、「正義」を皆が共有すること(筆者はこれを「共通善」と呼ぶ)、「共通の善」について議論し続けること、さらには、その土俵作りが重要なのだと考える。そのため、第1に、コミュニティへの帰属意識を高める「教育」、第2に議論をする「公の場所」、第3に市場主義に任せきらないように「公共サービスの拡充」、第4に異なる宗教や考えへの「相互理解」と「リスペクト」、以上の4点を筆者は主張する。

 

・論点と批評

①論点

 ハーバード大学の超人気哲学講義“JUSTICE”では、道徳的に許されなくとも、利益になるからと少数の弱者を犠牲にする功利主義を、何をするのも自己の自由だからとリバタリアン的な考えを否定している。

 そして、それらの思想のもとに政治や経済を成立させること、すなわち現代の社会システムへの懐疑的な見方を我々読者に啓蒙している。

 

②批評

まず、筆者は幅広い層に読んでもらうことを前提にしている。そのため、読者が取っ付き易い「トロッコ問題」や実際に起きた事件についての議論を通じて、功利主義的な考えとリバタリアン的な考えを紹介し批判している。実にわかりやすく、(政治)哲学を初めて学ぶ人などに特におすすめできる内容だ。けれども、本書はライトな読者層への知識の普及を目的にしていると考えられる。そのため、筆者の主張が最後まで読まないと見えてこず、上記の思想の紹介とその批判に比重を置きすぎているように感じる。

次に、自身の主張を裏付ける根拠が曖昧である。前述の通り、本書は功利主義とリバタリアニズムの具体例を交えた紹介と批判が主で、自身の主張を支える理論がなく根拠も薄い。恐らく、読者層を考えた結果、そこまで踏み込んだ話をしていないのだと思う。

最後に、これは私の考えだが、筆者の主張は現実離れしすぎた理想論、綺麗事ではないかと思う。なぜなら、人は合理的に行動する生き物だからだ。どんなに良心を持っていようが、合理性を無視した行動をとることは難しいのではないかと思う。ゲーム理論におけるゲームの1つ、「囚人のジレンマ」を思い出す。そこでは、互いに協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる。美徳や道徳を尊重して自分が不利益を被ることがある場合、人は合理性を無視した行動をとることができるだろうか。恐らく、この批判に対する反論も、読者層を考えた結果書いていないのだと考えられる。

 

・おわりに

 著者マイケル・サンデルは、今まで「正義」について深く考えたことのない読者に対して、ごく身近な問題から考えていくことを目的にこの本を執筆した。美徳と道徳による「正義」、そして何が「正義」なのか考え続けることの重要性を読者に伝えたかったのだと思う。

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