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ナポレオン四代~二人のフランス皇帝と悲運の後継者たち

  • seikeigakubueuropa
  • 2025年12月16日
  • 読了時間: 4分

著者:野村啓介

出版社:中公新書

出版年:2019年




評者:北島隆成


●はじめに

 この本は、18世紀末、一軍人から皇帝までのぼった英雄ナポレオンと、その後4代目までの「ナポレオン」について書かれている。父に憧れ、軍功を焦るが、病により夭折する2世、二月革命を経て大統領に当選しその後のクーデタで皇帝のなった甥の3世。そして帝政復興の期待を背負うも、英兵として赴いた戦地で命を落とした4世まで、革命と激変の時代に「ナポレオン」はどう生き、民衆に求められていたのかを読み解いていく内容である。

 著者の野村啓介は、1990年九州大学文学部史学科を卒業後、九州大学大学院を経て現在は東北大学で教鞭をとっている。著書に「フランス第二帝制の構造」(九州大学出版会)、「ヨーロッパワイン文化史―銘醸地フランスの歴史を中心に―」などの作品を持つ。


目次

序章:ナポレオンの家系

第一章:皇朝の創設者 ナポレオン一世

第二章:ドイツ貴族になった ナポレオン二世

第三章:囚人から共和国大統領、皇帝へ ナポレオン三世

第四章:帝政復興の期待の星 ナポレオン四世

終章:その後のボナパルト一族


章ごとの内容

 第1章は、ナポレオン一世を扱う。無名の軍人にすぎなかった彼が、フランス革命後の混乱期に軍功を立て、やがて政権を掌握し皇帝にまで上り詰める姿が描かれる。イタリア遠征やエジプト遠征の成功、ナポレオン法典の制定、パリの治安回復といった功績は、フランス国民に安定をもたらした。しかし、ロシア遠征の大失敗、ライプツィヒの戦いでの敗北、そして最終的にはワーテルローの戦いに敗れてセント=ヘレナ島に幽閉され、孤独のうちに死を迎える。

 第2章は、ナポレオン二世の短い生涯に焦点を当てる。彼はナポレオン一世とオーストリア皇女マリー・ルイズの間に生まれ、誕生と同時に「ローマ王」と称された。父の退位後はウィーンに送られ、「ライヒシュタット公」として育つが、実際にフランスの政治に関わることは許されなかった。彼は父の影を背負い続けながらも、その栄光を引き継ぐ機会は訪れず、病に倒れてわずか二十一歳で死去する。

 第3章はナポレオン三世を取り上げる。彼は一世の甥であり、青年期から「ナポレオン家の再興」を志す。幾度もクーデタを試みて失敗し、投獄や亡命生活を送るが、1848年の二月革命を契機に大統領選で勝利し、ついに権力を握る。やがて国民投票を経て皇帝に即位し、第二帝政を築き上げた。鉄道網の整備やパリの都市改造など、彼の治世は近代化を進める功績を残したが、後続の共和制のもとで悪者として、ときに邪悪な独裁者として描かれ、そのイメージが固着してしまった。

 第4章では、ナポレオン四世が描かれる。彼は三世の息子として生まれ、幼少期からフランス再興の希望を託された。しかし、第二帝政崩壊後は母とともに英国に亡命する。周囲からは「次なる皇帝候補」として将来を嘱望され、本人も軍人としての道を歩む決意を固める。しかし、ズールー戦争に従軍した際、不慮の戦闘で命を落とす。わずか二十三歳での戦死は、ナポレオン一族の夢に終止符を打つ悲劇であった。

 終章では、一世が築いた巨大な名声は、後継者にとっては希望であると同時に呪縛であり、その重さが彼らの人生を大きく歪めた。著者は一族の盛衰を追うことで歴史の奥に潜む人間の弱さや運命の残酷さを浮きだしている。


批評

 本書を読んだ読者にとって最も印象に残る点は、タイトルにもある通り、このナポレオン一世が成し遂げた偉業と後継者たちの悲劇だと考える。ナポレオン一世が時代を動かしたのに対し、二世や四世はその影に縛られ、短命に終わった。三世は一族再興の野望を実現したが、結局は国を敗北に導いて失脚した。歴史は英雄一人の力で進むのではなく、一族や社会、そして偶然の要素が複雑に絡み合うことを改めて思い知らされた。

 また、ナポレオン三世は近代国家としてのフランスの形成において一定の成果を上げた。しかし、その評価は常に、偉大なナポレオン一世との比較という視点からなされてきた。偉大な名を持つことが、必ずしも幸福ではないことを痛感させられる。

 一方で、本書にはナポレオン一族中心の視点ゆえの限界もある。ナポレオンたちの人生に関わる出来事などは描かれているが、フランス社会全体の変化や民衆の視点や考えなどはあまり書かれていなかった。


おわりに

 総じて『ナポレオン四代 二人のフランス皇帝と悲運の後継者たち』は、単なる英雄伝ではなく、一族の光と影を通して近代史を見直す作品である。偉大な名を継ぐことが幸福か不幸かという普遍的な問いを投げかけ、歴史を単なる成功譚でなく人間の選択と失敗の連続として捉え直す視点を与えてくれる。本書は、歴史好きはもちろんナポレオン一族について知りたい人には特におすすめできる一冊である。

 
 
 

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