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『ドイツのスポーツ都市』

  • seikeigakubueuropa
  • 3月27日
  • 読了時間: 6分

著作:高松平藏

出版社:学芸出版社

発効日:2020年3月25日


評者:太田光稀

 

◉はじめに

 本書は、著者が在住しているドイツ・エアランゲン市を中心にドイツ各地の事例を取り上げながら、スポーツや健康に関する取り組みが都市のエコシステム[1]としてどのように機能しているのかについて議論している。

 著者は奈良県生まれドイツ在住のジャーナリストである。京都の地域経済紙の創業メンバーとして関わったのち、1990年代後半から日独を行き来し始める。2002年にエアランゲン市に拠点を移した。

 

◉目次

第1章     スポーツクラブというコミュニティ

第2章     まちを盛り上げるスポーツ

第3章     サステイナブルなアウトドア・ツーリズム[2]

第4章     健康に暮らせるまちをつくる

第5章     スポーツが地域経済に与えるインパクト

第6章     スポーツ人口を増やすプロモーション

第7章     スポーツで都市の質を高める

 

◉概要

 第1章では、ドイツのスポーツクラブについて書かれている。ドイツでは日本でいうNPOをフェラインと呼びドイツのスポーツクラブはフェラインに属していると書かれている。そして、ドイツのスポーツクラブの歴史や各クラブ数、世代比率を説明した上で、スポーツクラブを通して住民にどのような利点があるのか、そもそも何故ドイツでスポーツが普及したのかが書かれている。また、ブンデスリーガと言えばサッカーを思い浮かべるが、サッカー以外のスポーツにおけるブンデスリーガの存在について説明されている。

 第2章では、まちを盛り上げるスポーツの仕組みについて書かれている。スポーツでまちを盛り上げるためには、スポーツ人口の増加が必要である。サッカーやそれ以外のスポーツのスポーツクラブからブンデスリーガの選手を輩出し、地元のヒーローが誕生する。また、地元のプロチームはまちの誇りであるため、街頭や建物の壁にはチームのシールが貼られており、そこから愛郷心が育まれる。それによって、まちがスポーツ競技場になり参加者や観客が集まる。こうしてスポーツ人口が増え、まちが盛り上がると書かれている。

 第3章では、ドイツのアウトドア・ツーリズムについて書かれている。ドイツ人の余暇の楽しみ方として、夏はハイキング、冬はスキーをする。特にハイキングが人気で、ビールハイキングというものも紹介されている。

 第4章では、健康に暮らせるまちをつくることについて書かれている。ドイツ人は散歩好きで、散歩は文化と紹介されている。ジョギングもよく行う。自転車都市としても知られるエアランゲン市は、自転車専用道路を整備すると同時に、市民たちのために「走りやすいまち」としてしっかりと歩道を整備するなど「走りやすいまち」と「サイクリングにやさしいまち」を実現した。

 第5章では、スポーツが地域経済に与える影響について書かれている。ドイツでは連邦政府や市町村などの自治体によるスポーツ支援があり、エアランゲン市を例として取り上げている。また、何故企業がスポーツチームのスポンサーに付くのかが詳細に説明されている。

 第6章では、スポーツ人口を増やすための活動について紹介されている。例えばドイツでは、ブンデスリーガ1部のチームと親善試合をするイベントやスポーツフェスト「3」を開き、訪問者に未知のスポーツを体験できるようにすることで、スポーツ人口を増やしていくと書かれている。

 第7章では、スポーツで都市の質を高めていくことについて書かれている。エアランゲン市の行政ではスポーツ部があり、スポーツ部と他部署・組織との連携がどういうものか説明されている。また、時代が進むごとにスポーツの価値が変わっていくことも書かれている。

 

◉批評

 この本は、ドイツがスポーツを通じてどのように地域を盛り上げていき、人々が健康で安心安全に暮らせるかということをメインに書かれている。この本を読み、ドイツやその国民のスポーツに対しての思いやスポーツでまちを盛り上げることについては知ることができたが、改善点もあるように思われる。そこで、この本の良い点と不足点、反論すべき点を述べていく。

 まず、この本の良い点は、ドイツとスポーツについて詳しく知れる点である。著者がドイツに在住しているため、ドイツ国内あるいは各地域の内情も細かく、わかりやすく書かれており、読み手もドイツの状況やスポーツの歴史、スポーツクラブの成り立ちを知ることができる。

 一方、この本には不足点もあり、著者がドイツのエアランゲン市に在住していることもあり、本全体を見てもエアランゲン市を多く取り上げている点である。勿論、他の地域も取り上げてはいるがエアランゲン市がほとんどである。つまり、ドイツそしてドイツの各地域を取り上げているというよりドイツ・エアランゲン市について書かれているようなものだ。読者としてはドイツ他地域の状況についても気になってしまう。

 また、反論したい点もある。この本では「子供たちのサッカーチームがトーナメント方式で勝敗を競う大会が開催され、そこで大人たちはビールを飲み交流している」(『ドイツのスポーツ都市』38ページ)と書かれ、「日本では青少年が一生懸命サッカーをしているそばで大人にアルコールを提供することに対して不謹慎だと考える人もいるが、ドイツでは子供のイベントを通して大人も交流できる機会がスポーツクラブを軸に実現されている」(『ドイツのスポーツ都市』38ページ)と書かれている。筆者は日本では一生懸命スポーツをしている子供の前でアルコールを飲みながら交流してはいけないという書き方をしているが、そもそも日本にそのような文化はない。また、筆者が言うように、日本では子供が一生懸命スポーツをしているところでアルコールを飲むのはよくないかもしれないが、それ以前に日本では親が子供の送迎をすることが多いためその場合アルコールは飲めない。そして、日本には、打ち上げという文化がある。そこで大人はアルコールを飲みながら子供や大人と交流することができる。したがって、場所や形式が異なっていてもアルコールを飲みながら交流ができるという点が反論したい点である。

 

◉おわりに

 高松平藏の『ドイツのスポーツ都市』は、ドイツ国内や各地域のスポーツについて細かく、かつ分かりやすく書かれている。特にスポーツクラブの数、その世代別比率やスポーツが与える経済効果の数値などがグラフや表とともに細かく示されていて、ドイツのスポーツクラブの全体像や、スポーツが与えている経済効果がどのくらいの規模で、どれほどすごいのかなどについて全体像も知ることができ、読者は楽しむことができる。一方で、各地域を取り上げてはいるものの、著者在住であるエアランゲン市が多く取り上げられており、もう少しほかの地域も取り上げてほしかったところである。しかし、ドイツ全体のスポーツに対しての取り組みやドイツ人の余暇の楽しみ方など普段知ることができないドイツ人の生活やスポーツへの思いを知ることができ、ドイツに少しでも興味がある人にとっては、読むべき本だと言えるのではないだろうか。

 

 

【脚注】

[ 1 ] 複数の企業、団体、個人などが相互に連携・協力し、それぞれの強みを生かしながら共存共栄する仕組みや共同体。

[ 2 ] 地域固有の豊かな自然環境や文化を保全・活用し、観光客が自然や文化を体験しながらも、環境への負荷を最小限に抑え、地域住民の生活も豊かにする持続可能な観光のあり方。

[ 3 ] 勝敗を競うことよりもスポーツの楽しさや魅力を体験することを重視した、イベント。


 
 
 

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