『分解するイギリス』
- seikeigakubueuropa
- 3月27日
- 読了時間: 5分
更新日:3 日前
著者:近藤康史
書名:分解するイギリスー民主主義モデルとしての漂流
出版社:精興社
出版年:2017年
評者:吉田優世
・本書の概要
本書は、タイトルにも含まれる「分解」をキーワードにイギリス民主主義の制度や政党政治のメカニズムを中心に捉えて、かつて理想やモデルとされてきたイギリス民主主義が、EU離脱によって何がどう変わってしまって、なぜ変化が起こったのか、どこに向かっているかを考えていくものである。
著者は、政治学者であり、名古屋大学や筑波大学の教授を務めている。専門分野は比較政治とイギリス政治である。名古屋大学を卒業した後、名古屋大学大学院法学研究博士課程修了し、博士号を取得した。
・本書の内容
本書は、序章から終章までの6章に分かれて構成されている。まず序章では、かつて民主主義のモデルとして称賛されていたイギリスの政治がEU離脱によって混乱を起こしている現状が描かれている。分解の過程・制度的な分解・変化を解説する分解の3つがタイトルにも含まれている「分解する」の意味を込めている。
1章では、模範とされていたイギリスの民主主義について書かれている。ウェストミンスター・モデル[1]によって、小選挙区制の下で、二大政党制は明確に強い政権と結びつき、安定した政治活動と明確な政権交代を行えたことを述べている。
2章では、モデルとされていた国家が分断されてきた様子について書かれている。二大政党には共通した政策が存在したため、対立することが少なかった。その背景には、二大政党による「合意」があった。この安「合意」が安定した政治を支えていたということが分かる。
3章では、民主主義の機能不全の表れについて書かれている。EUをめぐる対立が保守党と労働党を分断させ、新興政党・UKIPといった新たな党の台頭で二大政党制に混乱を招かせ、政治的合意が段々と崩れていった。また、首相の権力を強大にしたことが不満を招き、政党に亀裂をもたらしてしまい、政治体制への疑問と社会の分断を促進させてしまった。
4章では、二大政党が崩れてしまう様子について書かれている。イギリス政治を支えてきたパーツの組み合わせが緩んでしまったことで、分解が進行してしまう。小選挙区制は効果が薄くなり安定を得られず、二大政党制は多党化で政党内部でも分裂が深刻化した。スコットランド独立やEU残留・離脱をめぐる住民投票を通じて、単一国家としての統一性が脅かされ、民主主義のモデルであったイギリスは完全に分解のさなかに陥った。
終章では、イギリスの民主主義はもうモデル視することは出来ないだろうという筆者の結論が述べられる。それと同時に制度や社会が変化する姿は、」現代の問題を生み出していて、イギリス政治の一連の流れによって民主主義がどれだけ変動しているかを示したものであった。
・本書への問題提起
本書を読んだ中で見つかった命題は、民主主義を安定させるための仕組みは結局社会と歴史の観点に依存していることである。その中で2つの疑問が生まれた。1つは本当にウェストミンスター・モデルによって政治を長く安定させたのか。2つはEU離脱を境に民主主義が分解して、世界のモデルにはならなくなったという点である。
1つ目の疑問に関して、筆者は二大政党制や小選挙区は安定しており、明確な政権交代も可能にしたと述べている。しかし、制度の力だけでは安定感を示すことは難しいのではないか。実際に、冷戦だったから外交状況があまり変わらず、労働党と保守党は社会形成を共有していたから国民は合意していた。国民のこのような合意が安定を生み出したとするのならば、制度が良いわけでなく、その都度制度が社会状況に応じていたから政治が安定していたと考えるべきである。
2つ目の疑問に関しては、分解したことで元の状態には戻すことはできないだろうと考えたことが妥当とは思えない。確かにEU離脱がイギリスの政治を悪い意味で大きく変えてしまい、単一国家としてのまとまりを脅かした。ただ筆者はイギリスが歴史の中で改革と転換を行い、いくつもの危機を乗り越えてきたと述べた。ならば、個人的には、今回も1から新しい形を作っていくことで安定を取り戻し、モデルへと返り咲くことも可能ではないかと予想するのが自然な流れであるように思われる。
本書を読んでいると、筆者は、イギリス政治の危機を描いていると同時に、民主主義自体にも疑問を抱いているように感じられる。だから、イギリスで起こってしまったことを失敗として考えるのではなく、世界の民主主義に共通する課題を示したのだと一番に伝えたかったのではないか。
・おわりに
本書を通じて、イギリスが制度的に安定していただけではなく、国民の合意や状況に支えられていたことが分かった。筆者は、EU離脱を境に分解が進んだと強調しているが、私はその考えには強く賛同できなかった。イギリスの政治の分解は終わりではなくて、次の形を模索させるための転換であると捉えるべきである。
タイトルである「分解するイギリス」には、「政治過程としての分解」・「制度的な分解」・「社会と歴史の変化の分解」の3つの意味が込められており、制度・政治・社会が崩れつつある現状を端的に表しているものであると考えられる。
【脚注】
[1] イギリスで確立された内閣。議員内閣制を特徴とする民主主義の形式。




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