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『ナチズムは再来するのか?民主主義をめぐるヴァイマル共和国の教訓』

  • seikeigakubueuropa
  • 3月27日
  • 読了時間: 6分

・編者

 アンドレアス・ヴィルシング、ベルトルト・コーラー、ウルリヒ・ヴィルヘルム 

・発行所

 慶應義塾大学出版会株式会社

・出版年

 2019年

・著者

 アンドレアス・ヴィルシング(第1章)

 ホルスト・メラー(第2章)

 ウーテ・ダニエル(第3章)

 ユルゲン・W・ファルター(第4章)

 ヴェルナー・プルンぺ(第5章)

 ヘルフリート・ミュンクラー(第6章)

 エレーヌ・ミアル・ドラクロワ(第7章)

・監訳者 

 板橋拓己、小野寺拓也



評者:松田佳也


◉はじめに

 この本では、1919~1933年に存在したヴァイマル共和国と現在のドイツにおける、政治や社会状況の共通点や相違点を「政治文化」「政党システム」「メディア」「有権者行動」などに分け、多角的に比較・分析している。なお、この本は、各章ごとにそれぞれ違う人物(主に大学教授)が、ラジオで放送したものや新聞に掲載されたものを編者同士での対話を重ね、まとめられたものである。また、監訳者である板橋拓己と小野寺拓也は共に大学教授であり、それぞれ「国際政治史」「ドイツ現代史」を専門にしている。

 

◉概要

目次

まえがき

第1章〈政治文化〉理性に訴える

第2章〈政党システム〉敵と友のはざまで

第3章〈メディア〉政治的言語とメディア

第4章〈有権者〉抵抗の国民政党

第5章〈経済〉ヴァイマル共和国の真の墓掘人

第6章〈国際環境〉番人なき秩序

第7章〈外国からのまなざし〉不可解なるドイツ

おわりに

 

 第1章では、「ヴァイマル状況」という表現を用いて、当時のヴァイマル共和国で一般市民と権力者の格差が広がったことや、それに起因する右翼的なポピュリズムの台頭など、政治の危機的状況が述べられている。ヴァイマル共和国の特徴であった議会制において、諸政党の連立与党が過激的な理想を引き起こし、政治的極端主義を助長したと主張している。

 第2章では、ヴァイマル共和国の議会で多数の政党が乱立していたことで政治の不安定化が加速したことが述べられている。また、その中でナショナリズムを掲げる政党やポピュリズム政党の躍進などが現在のEU加盟国の情勢と共通している部分もあることが指摘されている。

 第3章では、ヴァイマル共和国におけるメディアの在り方が、政治的対立に対しどのような影響を与えたかが述べられている。この章の筆者は、ヴァイマル共和国の主要新聞が特定の政党支持を支持するかまたは沈黙し、偏向的な報道をしたと主張している。さらに、このような風潮が現代の社会にも同様に表れているとも主張している。

 第4章では、ヴァイマル共和国の中でナチ党がどのようにして支持を拡大していったかが述べられている。そして、そのナチ党の躍進と現代のドイツに存在するAfD(ドイツのための選択肢)には共通する点があると主張している。

 第5章では、ヴァイマル共和国の没落の一因はブリューニング首相が行った緊縮財政政策であると述べられている。当時、共和国とは名ばかりで左翼と右翼が対立していた議会に対して、エリート層が何の期待もしなくなったことで大企業が利己的な理由でヴァイマルを崩壊させにいったと主張している。

 第6章では、1919~1920年のパリ講和諸条約が国際的な新たな秩序を創り出し、その結果ドイツ国民の不満が高まり国内の不安定化が招かれたと述べられている。この新しい秩序は、国内を資本主義と社会主義の二つの分断したことにも繋がっていると主張している。

 第7章では、ヴァイマル共和国が他国からどのように見られているかが述べられている。現代のパリやロンドン、マドリード市民にとってヴァイマル共和国の知名度は低く、民主主義が崩壊し、ヒトラーによる独裁に堕落した国として特徴づけられていると述べられている。しかし、この経験が現代への警鐘としての教育的な機能を果たしていると評価している点も述べられている。

 

◉批評

 この本では、タイトルにもなっている「ナチズムは再来するのか?」という問いに対し、1章~7章まで様々な論点で各主張がされている。私は第4章「有権者」の部分について批評する。なぜなら、他の章はヴァイマル期のドイツを多面的に理解させてくれるもので説得的であるが、第4章においては、異なる時代の異なる背景を持つ2つの政党を比較しており、議論に問題があるためである。なお、第4章を書いたユルゲン・W・ファルターは、マインツ大学研究教授であり、2000年から2003年までドイツ政治学会会長であった。

 最初に、筆者は選挙におけるナチ党とAfD(ドイツのための選択肢)の得票率の推移が一致していると主張する。しかし、私はこの主張に反対する。それはただの偶然であり、見るべきは得票率ではなく、支持者がどのような人物か、ナチ党とAfDがどのような政策を掲げているかが重要であると考える。筆者はナチ党の支持者は手工業者や農民、自営業者などの中間層労働者の割合が約40%と多く、AfDの支持者もまた、労働者の割合が約40%という点が共通していると主張する。しかし、AfDの40%のうち半数は失業者であるため中間層ではなく、より下の下層労働者であることから、完全に一致とは言えないと考える。また、それぞれがどのような政策を掲げていたかに関しては、AfDに関する政策は本書の中で多く述べられているが、ナチ党に関する政策は薄く、有権者側の状況を解説する部分が多かった。そのため、事前知識が全くないと言っていい私のような読者にとって政策が一致していたかどうかは正直わからなかったというのが本音ではないどろうか。

 一方で、筆者はナチ党とAfDの違いについて述べている。それは、AfDが最初は国民民主主義掲げていたという点である。筆者は、AfDの躍進を国民自由主義から右翼的ポピュリズムないし国民保守主義に切り替えたことが一因であるとし、当初から社会主義または民族主義を掲げていたナチ党は、AfDのような反対方向への変貌はないと述べている。この点に関しては私も同意である。

 最後に、筆者は、AfDの台頭がナチズムの再来になるかについて議論している。AfDは保守的な政党であり、ナチ党のような民族主義や排外主義ではないが、選挙で勝利を収めればナチ党との類似性は大きくなると主張する。この点に関しても同意である。

 

◉おわりに

 この本は、各章でヴァイマル共和国と現代のドイツの比較がそれぞれの視点でされている。しかし、筆者が異なるため、各章の繋がりは薄く別々の論考がまとめられたものだと感じた。さらに、ヴァイマル共和国と現代のドイツに関する事前知識が必要であると痛感し、それが全くなかった私には理解するのに非常に時間がかかってしまった。これからはある程度の知識を勉強してから、書評を行いたいと感じた。

 
 
 

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