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『中世イングランドの日常生活』

  • seikeigakubueuropa
  • 2024年11月22日
  • 読了時間: 4分

著者:トニ・マウント(翻訳:龍和子) 

出版社:原書房

出版年:2022年10月24日



文責:圓崎颯大(政経学部2年)

 


🟢はじめに

 この本は、いずれ人類がタイムトラベルの技術を手に入れ、中世イングランドを訪ねることになったときの参考にするためのものというユニークな著者の思いが込められている。

 著者のトニ・マウントは、歴史家、作家であり、イギリス、オープン大学文学士、ケント大学で中世医学の研究修士を取得した。大学における研究や個人による調査や研究は30年におよび、これをもとに中世におけるごく普通の人々の生活を紹介している。

 


🟢本書の概要


①目次

第1章:まずはじめに

第2章:社会構造と住宅事情

第3章:信仰と宗教についての考えかた

第4章:衣服と外見

第5章:食べ物と買い物

第6章:健康と医療

第7章:仕事と娯楽

第8章:家族のこと

第9章:戦争

第10章:法と秩序

 

②内容説明

 第1章では、中世イングランドの時代背景が述べられていて、主に、農業の旺盛について言及されている。1066年にウィリアム征服王がアングロサクソン最後の王、ハロルド2世を倒したときには既に農業が盛んだった。町といえる規模のものはわずかしかなく、多くは村や集落だったが、それぞれに三圃式農業が確立していた。1つ目では、小麦、大麦、ライ麦などの穀物を栽培し、別の畑では、豆類を栽培し、そして3つ目の畑は休耕して家畜を放牧する。

 第2章では、中世社会の身分について貧困層、富裕層、中流層それぞれの暮らしという視点から説明される。中世初期の社会には3つの身分があり、「戦う人々、祈る人々、土地を耕し働く人々」と表現された階級だ。そして大半を占めていたのが「土地を耕す人々」だった。中世後期になると貿易商や職人、商人といった事業意欲に満ちた「中産」階級が登場し、全能の神による最善で完璧な計画とみなされていた、3つに厳格に分類されてきた身分の区別はあいまいになった。

 中盤の第3章~第8章では、他の章に比べて現代の生活に近いことがらについて深く掘り下げられる場面である。生活と密接に関わっていた宗教について、日用品と衣食住、結婚離婚、どのような姿勢で仕事に取り組んでいたかなどが挙げられる。

後半の第9章~第10章では、中盤の第3章~第8章とは異なり、現代では考えづらい戦争が日常にある当時はどのような生活だったのかが、主に論じられている。

 

🟢批評

 この本では、中世イングランドにタイムトラベルした時、どのように生活すればよいかという一風変わった視点から、当時の時代背景や、社会構造、医療、衣食住など、幅広い分野について詳細に説明されている。また、文中の「この状況になったらこうするべきだ」というユーモアにイングランドの歴史の知識が落とし込められているので、初心者でも非常に読みやすい。

 ただ、本書を読んで、いくつか気になった点もある。まず、記載されている年代についてである。扱っている時期は、1154年~1485年とやや短い。中世という括りがあるので仕方のないことだが、時代の流れを取り入れて比較するような描写があればより読みやすくなるのではないかと考える。次に、周辺の国との関係である。本書ではヨーロッパの国はおろか、近隣諸国とのかかわりについて言及されることはほぼない。そのため、例えば、身分的に最下層民の人々はどのくらい貧しかったのか、どのくらいひどい扱いを受けたかなどを読んだとき、イメージがしにくかったり、根拠に乏しいと感じることがあった。他国との関係を記載することで比較対象ができ、読みやすさが変わるのではないか。

 

🟢おわりに

 上記で述べたように、本書は、「もし中世イングランドにタイムトラベルしたら」という一見ふざけているようなユニークな著者の思いが込められているが、中世イングランドの日常生活について細かな説明がしっかりとなされている。さらに、文中には、当時の人に話を聞く風に表現するなど、読者を飽きさせないための工夫が施されている。そのため、読者層としては初心者をターゲットにしていると考えられる。その反面、コア層には少し物足りなさが残るかもしれない。

 
 
 

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