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『第二帝国』上巻

  • seikeigakubueuropa
  • 2月4日
  • 読了時間: 6分

著者:伸井太一

出版社:合同会社パブリブ

出版年:2017年


評者:劉芊葉


🟢はじめに

 伸井太一編著の『第二帝国』上巻は、19-20世紀のドイツ帝国について書かれた本で、政治、社会、文化、そして日常生活について詳しく解説している。なお、この本は上下巻で刊行されており、各巻で扱うテーマが異なる。下巻では、科学、技術、軍事・象徴をテーマに書かれているが、今回は当時のドイツ政治や社会に関心があったため、上巻を取り上げることにする。

 

🟢目次

「国々」:神聖ローマ帝国―オーストリア≒?

プロイセン王国:「新興国家」プロイセンの軌跡

バイエルン王国:保守的か?革新的か?

ザクセン王国:発明王国ザクセンの最大の発明とは?

ヴェルテンベルク王国:したたかな黒色の獅子と金色の鹿

バーデン大公国:自由主義の源泉地

「兄系ロイス」と「弟系ロイス」:兄弟みなハインリヒ!

エルザス=ロートリンゲン:二つの大国のはざまで

初代皇帝ヴィルヘルム1世:自由主義の敵か?味方か?

2代皇帝フリードリヒ3世:帝政期の希望か?〔ほか〕

 

🟢本書の概要

 第1章では、ドイツ帝国ができるまでの歴史が説明されている。特に、プロイセン王国が強くなっていく過程と、ビスマルクの役割に注目し、ドイツを統一するための戦争や外交がどう進んだのかが詳しく書かれている。

 次に、第2章では、ドイツ帝国ができた後の政治について話されている。皇帝ヴィルヘルム1世とビスマルクがどんな政策を取ったのかが詳しく説明されている。特に、ビスマルクが国内や外交でどのように帝国を安定させたかが書かれている。 

 第3章では、ドイツ帝国内のいろいろな地域や王国について説明されている。プロイセン、バイエルン、ザクセンなど、異なる文化や歴史を持つ地域がどうやって統一され、ドイツ帝国になったのかがわかる。また、これらの王国が帝国全体にどのような影響を与えたのかも書かれている。

 そうして、第4章と第5章では、ドイツ帝国時代の社会や文化、日常生活について描かれている。貴族と平民の生活の違い、産業革命が与えた経済や生活スタイルの変化についても説明されている。さらに、当時のファッション、食事、余暇の過ごし方など、ドイツ人の生活の様子も描かれている。

 この本、全体を通して、ドイツ帝国の政治や文化、社会について広く学ぶことができ、当時の歴史的背景とその影響を深く学ぶことができる内容となっている。

 

🟢論評

 この本では、ビスマルクというドイツを統一した政治家が中心となり、彼の政策や当時の人々の生活がテーマとなっている。この本を読んで、ドイツ帝国の歴史と人々の暮らしについて多くを学ぶことができたが、一方でいくつかの改善点もあると感じた。そこで、この本書評では、評価すべき良い点と不足点について述べていきたい。

 まず、この本の良い点についてである。特に、ビスマルクの政治政策を非常にわかりやすく解説していることが印象的である。ビスマルクは「鉄血宰相」として有名で、軍事力を使ってドイツを一つにまとめ上げた人物である。本書の中で、「ビスマルクは、ドイツを統一し、ヨーロッパでの地位を確立した」(『第二帝国』上巻、35ページ)と書かれており、彼の功績が大きく強調されている。ビスマルクの外交政策や、国内の反対勢力への対応なども詳しく書かれており、当時のドイツがどのように強くなったかを理解することができる。

 また、この本では、ビスマルクがヨーロッパの複雑なコミュニーケーション関係をどのように操っていたのかについても説明されている。「ビスマルクは、同盟を駆使しドイツの利益を守った」(『第二帝国』上巻、50ページ)と述べられており、彼の卓越した外交手腕が強調されている。これにより、ドイツ帝国の発展に大きく貢献したビスマルクの政治家としての能力がよく伝わってくる。

 さらに、政治だけでなく、当時の人々の日常生活についても詳しく描かれている点を高く評価したい。貴族と平民の生活の違いや、ファッション、食事、住まいについての記述が多く、「当時の貴族と平民の生活には大きな差があった」(『第二帝国』上巻、102ページ)とされており、当時の社会の状況がよくわかる。これにより、政治史を中心とした歴史的な背景だけでなく、同時に当時の人々の生活がどのようなものだったかを感じ取ることができる。

 しかし、この本にはいくつかの不足点もある。まず、ビスマルクの政策について批判的な視点があまり書かれていない点である。確かに、ビスマルクはドイツを強くした立役者であったが、彼の政策には問題点も多くあった。例えば、彼は社会主義者やカトリック教徒に対して強い弾圧を行い、国内の反対勢力を黙らせた。しかし、本書の中では「ビスマルクは英雄である」(『第二帝国』上巻、45ページ)と彼の功績ばかりが強調されており、彼の負の側面にはあまり触れられていない。ビスマルクの政策が後にどのような影響を与えたのか、特に第一次世界大戦やナチスの台頭にどのように繋がったのかがもう少し詳しく書かれていれば、より深い理解が得られたのではないかと考えられる。

 また、日常生活や文化に関する描写が少し浅いとも感じられる。本書では、衣食住や余暇についても説明されてはいるものの、具体的な統計データや詳細なエピソードがあまりなく、全体的に表面的な描写にとどまっている印象を受けた。例えば、「平民の生活は厳しかった」(『第二帝国』上巻、110ページ)と書かれているが、どのように厳しかったのかがあまり具体的に説明されておらず、当時の人々の実際の生活状況をもう少し詳しく知りたい読者には物足りなく感じられるかもしれない。労働者や農民の生活がどのようなものであったのか、彼らが抱えていた問題についての記述があれば、さらに理解が深まったのではないかと考えられる。

 

🟢おわりに

 伸井太一編著の『第二帝国』上巻は、ドイツ帝国の歴史やビスマルクの政治について非常に多くの情報を提供してくれる本である。特に、ビスマルクのリーダーシップとドイツの統一について詳しく説明されており、彼がいかにしてドイツ帝国を作り上げ、強い国に育て上げたのかを理解することができる。また、当時の人々の衣食住や文化についても図版や写真が豊富に使われており、視覚的にも楽しむことができる。

 一方で、ビスマルクの政策に対する批判的な視点が少なく、彼の政策の負の側面についてもう少し掘り下げてほしかったことも指摘せざるを得ない。また、日常生活に関する描写がやや表面的で、具体的なエピソードや統計が不足している点もやや残念な点である。しかし、それでもなお、ドイツ帝国に興味を持っている人にとっては非常に有益な一冊であり、とりわけドイツの歴史について学びたいと考えている人にとって、良い入門書だと言えるのではないだろうか。

 実際、筆者も、この本を通じて、当時のドイツ社会や政治についての知識を深めることができ、ビスマルクという人物についても多くを学ぶことができた。全体的には、歴史や政治に興味がある人にとっては非常におすすめできる一冊だと思う。

 
 
 

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