スペイン 危機の二〇世紀:内戦・独裁・民主化の時代を生きる
- seikeigakubueuropa
- 2025年12月16日
- 読了時間: 4分
著者:八嶋由香利
出版社:慶應義塾大学出版会
出版年2023年
評者:齋藤裕太
○はじめに
著者の八嶋由香利は慶應義塾大学の名誉教授でスペインの近現代史とカタルーニャ史の研究者である。
この本は20世紀のスペインを単なる通史として描くのではなくそれぞれの危機に翻弄される個人や集団のアイデンティティのあり方、その揺れや変化に着目する、スペインを国境を越えて広く外部に開かれた空間として捉え、そこで織りなされる人やモノ、情報などの移動・ネットワークに着目し、この共通認識の中で20世紀史の流れを理解していく本である。
○本書の内容と概要
目次
はじめに
第一章 自治と独立-カタルーニャ独立主義の源流
第二章 共和制・内戦からフランコ独裁へ-政治的暴力の歴史とどう向き合うか
第三章 「二十七年世代」の女性作家たち-コンチャ・メンデスとマリア・テレサ・レオン
第四章 スペインの前衛芸術と内戦
第五章 フランコ独裁政権下の小説-社会危機の表象
第六章 スペイン民主化とはなんだったのか-価値観・社会運動・政治制度
第七章 移民をめぐる「危機」とスペイン社会
おわりに
第一章では、スペインの主な歴史について書かれている。十六世紀に「太陽の沈まぬ国」と呼ばれたスペイン帝国は、一九世紀にはアメリカ大陸の領土が独立し、キューバやプエルトリコ、フィリピンといった島嶼部とわずかな領域が残されていた。そこに独立戦争が勃発し、スペインの植民地支配は行き詰まった。また、これとほぼ同じ時期にカタルーニャやバスクなどスペインの周縁部では地域主義の動きが活発化していった。こうした状況から様々なアイデンティティの形成も起こった。本書では、このことに加えてカタルーニャ主義やマシアというカタルーニャ自治政府首班のこと、さらにキューバについても書かれている。
次に、第二章では、スペインにおける政治的暴力や党派対立について書かれている。一八世紀末のフランス革命は隣国のスペインに甚大な影響を及ぼしスペインでも自由主義的な体制が誕生し共和制の成立と崩壊が見られた。本書では左派と右派の対立についても書かれている。
第三章では、二十世紀における女性作家のコンチャ・メンデス、マリア・テレサ・レオンに関する記述が中心である。2人の生い立ちと、メンデスの亡命生活など二人から影響を受けた人たち、フランコ独裁体制のことも一部書かれている。
第四章では、スペインの前衛芸術と内戦について書かれている。「非人間化された」芸術と内戦以前の前衛芸術の土壌はどのように培われそこからどのようにして前衛芸術が容認されていったかについても書かれている。
第五章では、フランコ政権時代に行われていた検閲制度の話、実際に検閲を受けた人物の話と内戦後文学の復興への歩みについて書かれている。
第六章では、スペインの民主化への歩み、それに対する価値観、社会運動、政治制度、フランコ政権の末期について価値観について書かれている
第七章では、移民をめぐる「危機」とスペイン社会について説明されている。スペインは移民政策が周辺国と比べて後発的であり、その結果として移民が流出してしまったことについて書かれている。
○批評
次に、本書についての批評をしていきたいと思う。この本の良いところは、スペインの近代から現代における歴史と芸術、内戦、政治体制、当時の考え方について幅広く書かれている点にある。また、非常にわかりやすく説明されており、読みやすいものとなっている。
しかし、カタルーニャ主義やスペイン人の昔からの民族性については、あまり深く書かれていない。そのため、スペインとカタルーニャではどのような違いがありそれがアイデンティティの成り立ちにどのような影響を与えたのか明示されていない。カタルーニャがスペインから独立したいと感じたところはどのような点なのかをはっきりと示しもう少し詳しく書く必要がある。客観的に考えるためには少し材料がすくないように思う。国家の成り立ちを織りなす民族性とカタルーニャ主義のような政治的な考えは簡単にはとらえることができない。そのため、もう少し書かれていたほうが良い。
○おわりに
しかし、この本の全体を通して私が感じたのは、スペインという国がどのようなプロセスを経て、いかに混乱の二〇世紀を克服していったのかを端的に伝えていた点である。その思いを、読みながら感じることができる。ただし、そういった民族性などを知るためには、もう少しスペインの歴史を深堀する必要がある。
本書は、スペインの混乱期をわかりやすく伝えてくれるそんな一冊だと感じた。




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