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『ユダヤ人』

  • seikeigakubueuropa
  • 2025年12月18日
  • 読了時間: 4分

上田和夫著、講談社現代新書834、1986年



評者:船津ゆうき

◉はじめに

 今回読んだのは、上田和夫さんの「ユダヤ人」という本です。まず簡単に説明すると、この本は古代から現代までのユダヤ人の歴史をまとめており、彼らがどんな特徴を持ち、どうして世界の中で独特の存在になってきたのかを分かりやすく説明しています。

 著者の上田和夫さんはドイツ文学の研究者で、さらにイスラエルに留学した経験がある人です。したがって、本の内容には、単なる歴史の知識だけでなく「現地に行ったからこそ感じられた視点」が反映されていると感じられます。しかも、難しい言葉が少ないので他の類似の本と比べると理解しやすいと思います。

◉本書の概要

 本書は、6章で構成されています。第一章は、古代ユダヤ人についてです。旧約聖書の時代から始まり、「選ばれた民」という強い自意識がどう形作られたのかを説明しています。その自負心は民族をまとめる力になった一方で、他民族からの反発を呼ぶ原因にもなりました。

 第二章は、イスラム・スペインのユダヤ人が主題です。イスラム世界の中では、ほかの時代より比較的自由が認められていた時期があり、ユダヤ人が学問や文化の面で大きな役割を果たしました。哲学者などが現れ、ここでは迫害されるだけの民族ではなく「活躍する少数派」として描かれていました。こういう時代があったことを知ると、ユダヤ人は、浮き沈みのある複雑なものだったと分かります。

 第三章は、中世ヨーロッパのユダヤ人について書かれています。ここが一番つらい内容です。たとえば、「儀式殺人」というでたらめのデマが信じられたり、ペスト流行の際に「井戸に毒を入れた」と非難されたりして、多くのユダヤ人が命を落としました。けれども皮肉なことに、ユダヤ人の中では日常的に清潔を保ち、感染を避ける行動をとることを重視していたため、ペストに対する意識が比較的しっかりしていて、他の人たちよりも病気が広がりにくかったという面もあったそうです。それがかえって「怪しい」と疑われる理由になったので、とても可哀想な状況でした。

 第四章は、東欧ユダヤ人についてです。ここでは、ポグロムと呼ばれるユダヤ人への襲撃や暴動が繰り返されたことが書かれています。ユダヤ人社会は、ポグロムによって常に脅かされました。それでも彼らは宗教的な学びや文化を守り抜き、独自の伝統を築き続けました。迫害されても生き残り、精神文化を受け継いでいく姿勢は驚くべきものです。

第五章は、ヨーロッパ近代のユダヤ人がテーマです。ここではロスチャイルド家のように世界的な成功を収めた人々の話が出てきますが、同時に依然として差別され、職業や居住地を制限されていたユダヤ人も多くいました。つまり、ユダヤ人の中で「大成功を収めた人」と「依然として迫害に苦しむ人」が大きく分かれてしまったのです。この時代の「格差」が、のちにさらに複雑なユダヤ人観を生んだのではないかと考えさせられます。

 第六章は、「シオニズムへの道」です。長い迫害の歴史の中で、「自分たちの国を持ちたい」という思いが強まり、最終的にはイスラエル建国へとつながっていきます。本を読み終えると、ユダヤ人の歴史が「散らされた民」から「国家を取り戻す民」へと変化していく大きな流れが見えてきます。

◉本書の特徴と性格

 この本の中で特に印象深い点は、ユダヤ人が「金融業に強い」とされる理由を説明している部分です。著者は、それは才能や天性のものではなく、ほかの職に就くことを禁じられていたため、やむをえず金融に携わった結果だと言っています。外から見ると「金儲けが得意な民族」という固定概念が生まれたわけですが、実際には差別や制限がそうさせたという事実は、とても説得力があります。

 全体を通して際立っている点は、とにかく読みやすいことです。専門的な本にありがちな難しさがなく、短い章立てでテンポよく進むので、歴史に詳しくない人でも理解できます。歴史に強くない人にとっては「入門書としてありがたい一冊」ではないでしょうか。

◉おわりに

以上のように、本書「ユダヤ人」はユダヤ史を一気に学びたい人にとても適した本です。古代から現代までを一冊でなぞることができるので全体像がつかみやすいし、著者の経験も交えて書かれているので説得力があります。

 
 
 

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