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『ヒトラーの時代 ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』

  • seikeigakubueuropa
  • 3月27日
  • 読了時間: 5分

著者:池内 紀

出版社:中央公論新社

出版年:2019年


評者:梁嶋 大輔

 

〇はじめに

 ドイツ文学者である池内紀編著の『ヒトラーの時代』は、1925年から1939年にかけてのヒトラーの政治家デビューから独裁者として人気絶頂にあった頃を中心に扱っている。なぜドイツ国民がヒトラーとナチスに熱狂したのか、重要になる様々なテーマやエピソードを「ドイツ文学者」の視点で独自に選出しており、その視角を中心に考察されている。

 

〇目次

封印された写真―はしがきにかえて

Ⅰ 消された過去

  演説家ヒトラー―デビューのころ

  カリスマの誕生

  独裁制の成立

  ペンと権力

  分かれ道(1)-マレーネ・ディートリヒの場合

  分かれ道(2)-名取洋之助の場合

Ⅱ 「歓喜力行」

  国民車の誕生

  国民ラジオの威力

  ゲシュタポの誕生

  ヒトラーとマイクロフォン

  ジュタリーン文字

  制服国家

  独裁制の完成

Ⅲ ナチス式選挙

  強制収容所第一号

  民族共同体

  「長いナイフの夜」

  亡命ハンドブック

  平穏の時代

  顔の行方

小市民にかえて―むすびにかえて

 

 

〇本書の概要

 最初のテーマ、封印された写真では、ヒトラーの姿をとらえた二つの写真についての考察と、その二つの写真を撮影したハインリヒ・ホフマンの生い立ちについて解説されている。はしがきなので、読者にまず本を読み進める前に、テーマごとに分かれている本書の文の大体の構成を読者に把握させる役割があると思われる。

 Ⅰでは、主にヒトラーの生い立ちから演説家デビュー、ヒトラーの独裁政権が誕生するまでのことが書かれている。ヒトラーがなぜ、独裁制を誕生させることができたのかが当時のドイツの背景を考慮しながら考察されており、また、当時のドイツに関わった人物の軌跡が解説されている。

 Ⅱでは、失業対策、車専用の道路(アウトバーン)や国民車(フォルクスワーゲン)への政策、国民ラジオ、ジュタリーン文字といったヒトラー政権誕生後のナチスが特に力をいれたものについて主に書かれている。また、それに対しての誕生過程やドイツ国民にどう影響したのかが考察されている。

 Ⅲでは、ナチスの権力掌握後の選挙の動きや、強制収容所の誕生、当時のユダヤ人の状況などが説明されている。また、ナチスの様々な政策、当時のドイツにおける歴史的出来事も書かれている。

 本書は、全体を通して、当時の時代背景を含めてナチスが行ってきた様々なことを学ぶことができる内容になっている。

 

〇書評

 本書は、ヒトラーがなぜドイツ国民を熱狂させることができたのかに焦点を当てて、各テーマに沿って考察されている。本書を読めば、ヒトラーが行ってきた様々なことについて学ぶことが出来る一方で、いくつか気になった点もあると感じた。この書評で良い点とやや物足りない点に分けて述べていきたい。

 まず、本書の良い点である。この本はもちろん、ヒトラーとは切っても切り離せない演説のテクニックや政策過程についても解説されているが、写真や肖像画の分析、当時のドイツに関わった人物の顛末、ジュタリーン文字、亡命ハンドブックなど政策や戦術といった堅苦しいものばかりだけでなく、私たち民衆に寄り添った視点のテーマからも考察されている。そのことによって、よりわかりやすく当時のドイツがどのようにドイツ国民を動かしていたのか、多くの角度から理解することができる。

 またこの本は、テーマを細かくかたまりに分けて書かれている。これにより、ヒトラーやナチスが行ってきた様々な政策とその効果について、情報が小分けにされて小さくなり、内容がより明確に理解することが出来るようになっている。

 しかし、この本にはいくつかの注意点がある。まず、この本は全体を通して、体系的に書かれていない点である。良い点で書いた通り、この本は細かく項目が分かれているが、そのことによって、さして重要でない同じような内容の記述の繰り返しや、年表を引用した文章が多くなってしまっている。

 また、この本は、ヒトラーがなぜドイツ国民を熱狂させたのかに焦点を当てて、考察されている。そのためヒトラー独裁政権の終焉、ホロコースト、第一次世界大戦による影響などといったこの時期の主要な出来事に関してはあまりふれられていない。そこにもふれられていればもうすこし考察に深みがでたのではないだろうか。

 さらに、考察にたいしてのデータの提示などが不十分に感じた。例えば、ヒトラーの演説には声そのものにも魔力があるのではないかという著者の考察があるのだが、そのことに対しての根拠が『新編 春の海―宮城道雄随筆集』という本一冊だけである。著者が主張を押し通したいがためにそれに合った根拠を提示しているようにしか見えない。より多くの参考文献を用いて考察すればよかったのではないだろうか。

 

〇おわりに

 しかし、ここで取り上げた注意点は本書を楽しむ上では大きな欠点ではない。本書は普段あまり本を読まない読者にも面白く、そして分かりやすく理解できるような構成、文体で書かれている。またドイツ文学者の視点で独自のテーマで切り出しているのも事実だ。ヒトラーやナチスの政策などを理解するうえで読むべき一冊だろう。

 
 
 

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