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『ドイツと日本の比較経済社会学 もう一つの日独比較論』

  • seikeigakubueuropa
  • 2月4日
  • 読了時間: 4分

著者:平寺岡寛

出版社:信山社

出版年:2023年


評者:伊藤和平


🟢はじめに

 現在では新型コロナウイルスは比較的落ち着きつつある。2019年12月初旬に、中国武漢市に第一例目が報告され、瞬く間に全世界へと流行したこの出来事は、自分自身決して忘れることはないだろう。そして筆者もまた同じようだ。筆者である寺岡寛は京都大学の経済学博士として今までに、中小企業政策論を中心に、日米比較をはじめとした現代アメリカ経済論や中小企業の社会学‐もう一つの日本社会論などの書籍出版や多くの論文を書いてきた。

 そんな著者は、コロナウイルスによって引き起こされた“パンデミック”による閉鎖感から、ドイツのファシズム時代を連想し、ドイツへの関心が引き立たれた。本書は、このような理由から抱いた疑問を6章(歴史比較論、社会比較論、経済比較論、経営比較論、政治比較論、モデル構造)に渡って考察している。


🟢本書の概要

 本書は、上記の通り6章構成であり、第1章では、歴次に史的比較論が論じられている。例えば、日本とドイツの産業化の時期やその進行過程の違いについて比較されている。次に第2章では社会比較論について語られている。例えば、両国における労働文化や社会福祉制度の発展の違いが議論されている。第3章、第4章では、それぞれ経済と経営について比較論が提示されている。例えば、企業のガバナンスモデルや生産性向上の取り組みが取り上げられている。そうして第5章では、政治比較論が論じられ、例えば、日独両国の政治体制や政党の取り組みが取り上げられている。最後に、第6章では、モデル構造論が論じられ、例えば、日独それぞれの社会モデルが経済や文化にどう影響を与えているかが分析されている。


🟢批評

 寺岡は、ドイツと日本の経済社会システムが、それぞれ異なる歴史的背景と文化的要因によって形作られたと主張している。例えば、ドイツと日本の歴史的背景の違いが、それぞれの経済システムの形成に大きな影響を与えたと指摘している。私もその意見は正しいと考える。ドイツは長い間、地域的に分散した領邦国家の連合体であり、この多様性がドイツの経済発展において柔軟性と適応力をもたらしている。一方、日本は比較的中央集権的な封建制度を持ち、明治維新以降、中央集権化が一層進んだため、政府の主導による経済発展が重視された。

 また、寺岡は、両国の経済政策において、国家の役割が重要であると強調している。私もこの意見において同様の考えを持っており、ドイツでは、国家が社会福祉政策(世界で最初に社会保険を制度化したビスマルクの疾病保険法であり、現在では、年金保険、医療保険、労働災害保険、失業保険及び介護保険の5つ「厚生労働省資料参照」)を通じて経済安定を図り、経済政策を促進している。日本では、政府が産業政策を通じて特定の産業を支援し、経済発展を促進している。このように、国家の介入の形態と程度が異なることが、両国の経済構造に影響を与えていると考えられるのである。

 そのような寺岡の主張に対し、ここでは二つの反論を述べていく。まずは単純化のリスクについてである。寺岡の分析は、両国の経済システムを比較する上で有益であるものの、システムの特性を過度に単純化しているのではないかと私は考えた。例えば、ドイツの「社会的市場経済」と日本の「協調型資本主義」を対比する際に、各国の内部における組織で習慣化された構造や習慣、いわゆる“経済慣行”や地域差を十分に考慮していないのではないかと考えた。特に、両国ともに地域ごとの経済発展の差異があり、それが経済システム全体の理解に重要な影響を与えることもあるのではないかと考える。

 そして2つ目に、グローバルな視点についてである。寺岡の分析は、主に国内の経済システム焦点がおかれている。しかし、現在急速にグローバル化が進んでいるこの現代において、国際的な経済関係や影響力を考慮することも重要なのではないかと考える。ドイツも日本も、輸出依存型経済であり、世界経済の変動が国内経済に与える影響は大いに大きいと考えることができる。この点で、両国の経済システムの分析において、国際的な視点が欠如していると考えた。


🟢おわりに

 以上のように、いくつかの批判的な意見を述べたが、私には、まだ本書の内容をしっかりと批評するだけの知識は全くと言っていいほど不足しているのは重々承知している。私のあげた考えにも、またさまざまな考慮にかけている部分があるかもしれない。書評を書くのは今回が初めてであり、こう言ってはもともこもないが、寺岡の著書は、ドイツと日本という異なる経済システムを比較することで、それぞれの国の強みと課題を明らかにする一助になる一冊であり、経済社会学の分野において重要な貢献を果たしているように感じられた。私のこれからの考えの幅を広げてくれる一冊であり、より合理的かつ客観的な意見を述べられるようにしたいという私自身の目標を添えて、この書評を締めくくらせてもらおうと思う。



 
 
 

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