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【書評】『黒の服飾史』 

  • seikeigakubueuropa
  • 2022年1月22日
  • 読了時間: 4分

更新日:2022年10月8日

 河出書房、2019年

文責:鎌田陽生(政経学部2年)


今回紹介する本は、「黒の服飾史」という本です。

著者は、フランス服飾・文化史の大家であり、現在はお茶の水女子大学名誉教授である。簡潔でありながら、強いインパクトを放つ題名を有する本書は、これまでの著者の長年にわたる経験や重厚な研究的知見を踏まえつつ、「黒」と「服飾」という極めて興味深いトピックを通じて、中世以降のヨーロッパ史を鮮やかに描き出した意欲的な一冊である。

●本書の内容

 本書は10章で構成されており、詳細は以下の通りである。

 第1章 多色使いの忌避

 第2章 モノクロームの道徳性

 第3章 黒いモードの誕生

 第4章 メランコリーの系譜

 第5章 プロテスタントの倫理とモノクローム志向

 第6章 白いモードと白の表象

 第7章 近代社会のブルジョアの色

 第8章 産業社会の労働の色

 第9章 近代都市とジェンダー

 第10章 現代のモノクロームと黒の表象

 ヨーロッパはファッションの発信地であるが、ヨーロッパ人は色に禁欲的でもある。以上のような一見矛盾するかのように見える2つの特徴を、筆者は合理的に結びつけてみせる。つまり、ヨーロッパ人の色に対する禁欲は、色への関心の強さの裏返しなのだ。そこで筆者は、何故ヨーロッパの人々が色に厳しく向き合うのか問いかける。


 2章では、喪服と修道服を起点に議論が展開される。歴史的に、喪服において黒と白という2種類の色が使用される。「黒」は、喪服が黒い修道服に由来するためであり、人間の罪と、その罪に向き合う宗教的な色を示す。一方、「白」はキリスト教における死後の復活を意味している。したがって、どちらもキリスト教信仰に基づくものといえる。


 それが、王政復古期には、黒と白は喪服だけではなく、ドレスの色としても使用されていく。喪服の黒と、ファッションとして扱われる黒の違いは曖昧であったが、その例として、本書では、喪服姿で舞踏会に出る19世紀の女性たちが紹介される。


 15世紀以降の黒の時代的な流行をどう説明するか。権力・権威を表す色としての意味だけでは、十分には説明しきれない。本章後半では、黒という色の持つ印象を時代の経過とともに説明した上で、黒の好尚について時代的な心性を問う著者の課題意識が明確にされる。

 3,4,5章では、15世紀以降の「黒」に対する価値観の変化が描写される。15世紀頃までは、まだ黒は悲しい色、ネガティブな色、卑しい色とされていた。しかし、「老いた女性の病であったメランコリーが、創造力を生み出すメランコリーへと変貌し、またメランコリーを情緒として感じることができるようになったことが、この観念が想起させる黒という色のイメージも変えたと想像するのに無理はないだろう」(本書100ページ、1~3行目)。そうして、15世紀から16世紀に移り変わる頃には黒という色が衣服の色としてどのように定着したか、ということを分かりやすく示している。


 7,8,9章では近代社会になり、黒は男の服装と勤労の象徴の色として流行していく。また、近代社会になるにつれて、男性と女性の服装、服飾の差ができ始めていく。その差が出来たのは、男性と女性の分担がハッキリしていったことが大きな理由である。これらの章では、時代背景によって柔軟に変わっていく黒という色の特徴を上手く説明している。

 10章では、現代がテーマである。現代における黒の在り方が変わっていき、20世紀から台頭してきたシャネルというブランドが、黒といえば男性というイメージを変えていった。このようなファッション・ブランドの誕生により、黒の持つ印象が変えられていった。

●本書への批評・評価

 題名にもある通り、本書は、ヨーロッパ史における黒に対するイメージや黒の意味などを深く知ることができる内容となっている。また、「黒」という色だけではなく、第6章に詳しく書かれているように、黒の真逆の「白」という色について、その当時に持たれていた意味やイメージなどを紹介している。それによって、「黒」と他の色との比較をおこない、それぞれの色の意味や価値を明確にすることによって、読者は分かりやすく「黒」という色を知ることが出来る。本書を読めば、時代風景によって持つ意味が変わっていく黒と色が多様な意味を持っており、色々な人へ色々な印象を与えられる色となっていくことが分かる。

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