2025年度2年ゼミ夏の書評チャレンジの合評結果について
- seikeigakubueuropa
- 2025年12月18日
- 読了時間: 5分
日時:2025年9月24日
開催地:富士緑の休暇村(樹海周辺)
取り纏め:内田秀真(4年ゼミ長)
記録:高見
●審査結果
本審査会では、2025年度2年ゼミ生が今夏の課題としてチャレンジし作成した書評の第一次稿(または修正稿)について、特に優れた点を有すると評価された書評を表彰します。審査は3・4年ゼミ生、卒業生が合評し、決定したものです。教員の役割は、例年通り、原稿の取りまとめと配布に留まりました。
合評においては、参加した上級生から、厳しくも暖かい意見が多く寄せられました。今年度の書評も昨年度に引き続き意欲的な作品が多かったと思います。上位5名を表彰しましたが、惜しくも表彰を逃した書評の全てが得点を獲得していました。
今回も過去2年間と同様に、事前に審査役の皆さんに原稿を配布し読んでもらう方法を取りました。本の内容を紹介するだけに留まらず、著者の立ち位置や議論の方向性も考慮しつつ、歴史的視点も意識しながら批評を試みたり、著者との議論を試みた作品が評価されたように感じます。審査側として参加した学生にとっては、他者の作成した書評を吟味し、内容や構成の長所や改善点を考えることで、文章を客観的に理解する練習になったはずです。
今後、こうした経験を、自身の文章やプレゼンテーションを作成する際に生かしていくことが期待されます。
以下が、今年度の受賞作品です。
★最優秀賞
小林幸誠(西永良成『『レ・ミゼラブル』の世界』岩波新書, 2017年)
本書評は、ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』を読み解く著作に対して、内容を簡潔かつ分かりやすく紹介した上で、意欲的に議論を試みている点が高く評価された。ユゴー研究としての側面や、『レ・ミゼラブル』を読み解く際の論点に対して共感を示しつつ、小説の主人公ジャン・ヴァルジャンの人生に聖性を見出そうとする筆者に対して、キリスト教倫理の点から異議を唱え、より厳密な分析を求める形で批評を展開している。一方で、批判部分にあるジャン・ヴァルジャンの罪の軽視という指摘は良いとして、「ユゴーがなぜそのように描いたのか」という作者ユゴーの意図や、文学的手法への考察にさらなる考察の余地がある可能性が指摘された。
★優秀賞2位
太田光稀(高松平藏『ドイツのスポーツ都市』, 学芸出版社, 2020年)
本書評は、ドイツの一都市エアランゲンを事例に、ドイツのスポーツ文化の在り方を考察した一冊に対する書評である。書評の文章は平易で読みやすく、馴染みのない用語には脚注を用いており、読者に対する気づかいが感じられる。また、日本社会で見いだされる慣習を比較検討する材料として出しながら、筆者のいうドイツ文化の優越性について、具体的な場面を想起しながら意欲的に批判を試みている。以上の点から、高く評価された。ただし、日独の文化比較を行う際に両地域の前提条件やそれを踏まえた論点についての検討が十分に行われていないため、比較がどれほど整合的であるのかという点が指摘された。また、エアランゲンの事例がドイツ地域の検討としてどれだけ有効かという点について検討が十分ではない点、歴史的な視点があまり考慮されていない点が改善点として指摘された。
★優秀賞3位
梁嶋大輔(池内紀『ヒトラーの時代 ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』中央公論新社, 2019年)
本書評は、20世紀前半のドイツについて、なぜヒトラーとナチスが当時のドイツ国民の支持を得ることができたのかドイツ文学者の視点から考察した一冊を検討した。「はじめに」でこの本が持つ視角と、それに基づいてどのような考察がなされているのかについて分かりやすく説明されており、その後の議論や説明も平易で読者に分かりやすく書かれている点が評価された。また、文章構成にも着目し、各構成の役割を見出すことで読み手がどう感じとれるのか書かれている。改善点としては、著者の主張に対して十分な証拠・データに基づくのかという点に懸念を示している点は良いが、もう一歩踏み込んで活用しているデータの信頼性そのものを検討する段階までいけるとより一層良いのではないか。また、専門用語が多く登場していたため、いくつか脚注があるとより分かりやすくなるのではないかとの指摘があった。
★優秀賞4位
吉田優世(近藤康史『分解するイギリス―民主主義モデルとしての漂流』精興社, 2017年)
本書評は、現代イギリスの議会政治について民主主義体制の形成から分解までを議論する一冊の書評である。各章の説明でイギリスの政治状況の流れを簡潔に説明しながら本の要点を示し、その上で独自の問題意識について、その理由を含めて展開できている点が評価された。課題点として挙げられたのは、本のキーワードとして取り上げられる「分解」についての説明や議論がやや不足していることである。本のタイトルの一部にもなっている「分解」をめぐる説明や周辺情報を提示した上で、例えば国際比較や歴史的推移の検証、将来展望などを加えながらこの点を議論することで、書評としての完成度がより一層高まるのではないかという指摘があった。
★優秀賞5位
舟山大輝(太田美幸『スウェーデン・デザインと福祉国家 住まいと人づくりの文化史』新評論, 2018年)
本書評は、民衆教育などによって住まいと暮らしがどう変化していくかという点から福祉国家スウェーデンを捉えた一冊の書評である。著作の重要な論点として「民衆教育」を示しつつ、説得的である部分に対する理解も示しながら、地理や気候など多角的な視点で捉える必要性を提示し批評を展開している点が評価された。いくつか示された改善点を挙げると、例えば、本のタイトルにあるデザインと福祉国家の関係性が書評を通して見えてこない点が挙げられる。また、スウェーデンを福祉国家と捉える固定的なイメージから出発しているがゆえに、福祉国家であることを前提とする議論から抜け出せていない可能性が指摘された。これと関連して、福祉国家成立後のスウェーデンがどのような道を辿り、どのように変容しているのかという点への言及が行われると、書評での議論がさらに深まるのではないかとの意見があった。



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