2024年度2年ゼミ夏の書評チャレンジの合評結果について
- seikeigakubueuropa
- 2024年10月17日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年11月22日
日時:2024年9月26日
開催地:起雲閣・音楽サロン(熱海温泉)
取り纏め:渡邉義臣(4年ゼミ長)
記録:高見
●審査結果
本審査会では、2024年度2年ゼミ生が今夏の課題としてチャレンジして作成した書評の第一次稿(または修正稿)について、特に優れた点を有すると評価された書評を表彰します。審査は3・4年ゼミ生、卒業生が主体となって合評し、決定したものです。教員の役割は、原稿を事前配布することに留まりました。
合評においては、参加した上級生から厳しくも暖かい意見が多く寄せられました。今年度の書評は平均的にレベルが高く、上位5名を表彰しましたが、惜しくも表彰を逃した書評の中にも、高い評価を受けた作品が多くありました。また、今年度は留学生の健闘(1位、4位)も光りました。
今回も昨年度と同様に、事前に審査役の皆さんに原稿を配布し読んでもらう方法を取りました。本の内容紹介に留まらず、著者の立ち位置なども考慮しながら、本の位置付けや評価付けを積極的に試みた作品が高い評価を受けたように感じます。審査側として参加した学生にとっては、他者が作成した文章の構成を吟味し、長所や不足点をディスカッションすることで、文章作成を客観的に理解し、考えるきっかになったはずです。
今後、こうした経験を、自身が文章を作成する際やプレゼンテーションの構成に生かしていくことが期待されます。
以下が、今年度の受賞作品です。
★最優秀賞
劉芊葉(伸井太一『第二帝国』上巻, 合同会社パブリブ, 2017年)
本書評は、19-20世紀ドイツ帝国の成立と展開について政治、社会、文化面などに焦点を当てて描かれた書籍を取り上げている。書評では、ビスマルクの功績に焦点を当てた部分などを紹介しながら、その功績に対する批判的な視点の不足を論じている。著者の思いや立ち位置への言及が不足しており、また具体例を用いた説明がより多くあるとなお良かったが、バランスよく書籍の内容を紹介した上で、実際の文章を引用しつつ、積極的に評価すべき点と不足点を明確に区別しながら説明することができていた点が高く評価された。
★優秀賞2位
呉智新(ジェームズ・ジョエル『第一次世界大戦の起源』(第三版), 2020年)
本書評は、第一次世界大戦の起源という大きなテーマを論じているジェームズ・ジョエルの書籍を取り上げたものである。全体的に構造が明確で、著書を的確に分析した上で、著者の主張に対する理解と批判が、論理的かつ説得的に示されていた。ただ、著書を評価するのにポパーの思想との一致に言及した部分は、批評の根拠として脆弱であり、ポパーについての説明や位置付け、ポパーを取り上げる意味を示す必要があった点は指摘されざるを得ない。しかし、それでもなお、本書評で展開された歴史観をめぐる洞察は高く評価された。
★優秀賞3位
久保瑞穂(廣野由美子『シンデレラはどこへ行ったのか――少女小説と『ジェイン・エア』』岩波新書, 2023年)
シンデレラ物語と脱シンデレラ物語の系譜を社会変化やジェンダーとの関係において論じた書籍を取り上げた本書評の特徴は、余分な贅肉を落とし切った先にあるスリムで洗練されたロジックの連続としての文章である。それがゆえに、読者に寄り添う具体的な補足説明がもう少し欲しいと感じ、本書に登場するキー概念をめぐる議論に付いていくことに難儀した読者もいたかもしれない。それでも、著者の立ち位置を明確にとらえ、その上で本書の展開と論点を明示しながら批判的に論じた書評は非常に説得的であり、高く評価された。
★優秀賞4位
伊藤和平(寺岡寛『ドイツと日本の比較経済社会学:もう一つの日独比較論』信山社出版, 2023年)
ドイツと日本の2国について、歴史・社会・政治・経済など多様な視点から比較する書籍を取り上げた本書評は、著者の主張を的確に分析し、それを簡潔かつ丁寧にまとめて提示することで、読者にとって読みやすい書評になっているといえる。その上で、国際情勢を絡めながら著者の持つ視野について批判的に考察することができていた。本書内容の積極的な評価の部分や、批判の根拠に具体性があるとなお良かったが、マクロな議論に対してマクロなレベルで批判的に考察を展開している点、そして理解しやすい文章構成が高く評価された。
セキイカ(大内田わこ『ホロコースト現場行く』岩波書店, 2022年)
本書評は、第2次世界大戦時にホロコーストが行われた強制収容所の地を実際に訪れながら当時のホロコーストを考察する書籍を取り上げたものである。書評では、書籍の内容を分かりやすく説明した上で論点を明示し、著者の思いへの理解を示しながら、著者の言い回しや思いの強さが書籍の内容に与える影響の可能性についても批判的に指摘することができている。書評全体の構成の仕方や評価・批評の幅については指摘はあったが、現代まで続くホロコーストの影響を問う著者の思いに寄り添う形でまとめた書評内容が高く評価された。
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